安保法制合憲の政府主張は反論の体をなしていない (沖縄タイムズ・西日本新聞他)
安保法制合憲の政府主張は反論の体をなしていない
政府は9日、安全保障関連法案が合憲であると反論する見解書を野党側に示しましたが、11日の沖縄タイムスは「砂川判決の拡大解釈」、南日本新聞は「合憲を強弁するべきではない」、西日本新聞は「反論の体をなしていない」、高知新聞は「反論の名に値するのか」とする社説をそれぞれ掲げました。
一つひとつがもっともな指摘です。
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政府の「合憲」見解 砂川判決の拡大解釈だ
沖縄タイムス 2015年6月11日
安倍晋三首相は8日、ドイツで会見し、1959年の砂川事件をめぐる最高裁判決を引用しながら「自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を取り得ることは国家固有の権能の行使として当然のことだ」と、安保法案の「合憲」を主張した。
9日、政府が示した見解にも、自衛のための措置を認めた砂川判決と「軌を一にする」と書かれている。
政府は砂川判決を持ち出して集団的自衛権行使容認の論拠とするが、都合のいい我田引水の解釈である。
東京都砂川町(現立川市)の米軍基地に入ったデモ隊が刑事特別法違反で起訴された砂川事件では、東京地裁が駐留米軍を憲法9条違反の戦力だとして無罪判決を言い渡した。その後、最高裁は戦力に当たらないとして一審判決を破棄。安保条約の違憲性については判断しなかった。
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自社さ連立政権で首相を務めた村山富市氏と、当時、自民党総裁だった河野洋平氏が、そろって集団的自衛権の行使容認を含む安保法案を批判している。議論すればするほど不備や欠陥が浮かび上がる法案を、今国会で成立させようとする政府のやり方に異を唱えているのだ。
[新安保政策 法案の合憲見解] 強弁するべきではない
南日本新聞 2015年6月11日
政府、与党が解釈変更の土台としたのは1972年の政府見解だ。「やむを得ない場合に必要最小限度の自衛の措置を認める」としたが、集団的自衛権の行使は許されないと結論付けていた。
これまでの法案審議で明らかになったのは、つじつま合わせの横行だ。法案の土台が揺らいでいるからに他ならない。
今回の政府見解も新3要件に関し、「ある程度抽象的な表現は避けられない」と説明している。
安保法制ありきという政権の姿勢を反映したものだろう。特別委で答弁の意図をただされた中谷氏は、「撤回したい」と述べた。
政府側は、学者の判断は絶対でないとアピールするのに懸命だ。足元の自民党でも、法案への賛否をめぐって総務会が荒れた。
国のかたちにかかわる重大事だ。法案撤回を含めて議論をやり直すべきである。野党もこれ以上の強弁を許してはならない。
安保法制「違憲」 反論の体をなしていない
今回の政府見解では「必要最小限度の自衛の措置」は認められるとした1972年の政府見解をあらためて引用した。
このときの政府見解の結論は憲法上集団的自衛権の行使は許されない-だったが、今回は武力行使の新3要件を満たせば「わが国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として一部限定された場合」に集団的自衛権を行使できると結論付けた。
許される武力行使の範囲については「いかなる事態にも備えておく」として、「ある程度抽象的な表現が用いられることは避けられない」としている。
高知新聞 2015年06月11日
安保法案の根幹を専門家に真っ向から否定されては、さすがに無視はできなかったようだ。「違憲法案」との見方が広がる前に、反論しておく必要があったのだろう。
これに対して政府の文書は、「必要最小限度の自衛の措置」は憲法上許されるとした1972年の政府見解を再び引用する。しかしこの見解の結論は「集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」というもので、論理のすり替えだとの批判が根強い。
政府の文書はその理由を「安全保障環境が根本的に変容」し、「これまでの認識を改め」たからだという。
この理由もあいまいで、憲法学者を納得させることはできまい。憲法審査会に自民党推薦の参考人として意見を述べた長谷部恭男・早稲田大教授は本紙のインタビューに答え、「安全保障環境が以前より危険だというなら、日本の限られた防衛力を地球全体に拡大するのは愚の骨頂だ」と一蹴した。
安保法案はこの国の針路に大きな影響を及ぼす。国会や専門家任せにせず、さまざまな分野で国民的議論を広げていくべきだ。