立憲デモクラシーの会 学者らが安保法案の撤回求める声明

2015年6月25日木曜日

立憲デモクラシーの会 学者らが安保法案の撤回求める声明

 安全保障関連法案に反対する憲法学者などで作る「立憲デモクラシーの会」は、24日、「安全保障関連法案は、立憲主義に基づく民主政治を根底から覆しかねないもので撤回すべきだ」などとする声明を発表しました。
 声明は、法案が憲法に違反し日本の安全をかえって脅かすものであることを、簡潔にに且つ多面的に述べています。
 
 その記者会見で、会の共同代表を務める山口二郎法政大学教授は「安倍総理大臣は『憲法解釈の変更の正当性、合法性に確信を持っている』と述べたが、『確信』で済むなら議会政治の意味がない。理由と根拠を説明すべきだ」と述べました
 長谷部早大教授は「国会での与野党の議論は全くかみ合っておらず、憲法違反であるとの指摘に政府は誠実に対応していない」と批判しました。
 
 実際、安倍政権は安全保障関連法案の成立を目指して95日間という驚くべき幅の会期延長を強行しましたが、これまでも国会で何一つ理に適った説明を行うことが出来ていません。
 小林節慶大名誉教授に至っては、22日の衆院特別委員会で安倍首相を次のように批判しました。
 「今回、1年間議論を見ていて、本当に政治が劣化したと思います。2014年5月15日の安保法制懇の報告書から1年あったわけですよ。その間、安倍総理から丁寧に説明するという言葉だけは出たけど、丁寧に説明されたという実感は一度もありません。説明を求めると、全然関係ないことをとうとうとしゃべる。ディベートに応じているふりをして応じないテクニックは、気をつけないとこちらが怒り出してしまう。本当に卑怯な手だと思います。天下国家を司る人の器ではないとはっきり思います。」
 
 国民の80%が否定している法案はそもそも合理的な説明が出来ないものです。それなのに決定的に説明能力に欠けている安倍政権が、この先一体どのようにして成立させようというのでしょうか。法案は撤回するしかありません。
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安保関連法案反対の憲法学者ら 撤回求める
NHK NEWS WEB 2015年6月24日
安全保障関連法案を巡って、衆議院憲法審査会の参考人質疑で法案は憲法違反だと述べた憲法学者などのグループが会見し、法案の撤回を求めました。
 
記者会見を開いたのは、安全保障関連法案に反対する憲法学者などで作る「立憲デモクラシーの会」で、今月4日の衆議院憲法審査会の参考人質疑で法案について「憲法に違反している」と述べた、早稲田大学の長谷部恭男教授や慶應義塾大学小林節名誉教授などが出席しました。
 
会見では「安全保障関連法案は、立憲主義に基づく民主政治を根底から覆しかねないもので撤回すべきだ」などとする、会としての声明を発表しました。
また、長谷部教授は「国会での与野党の議論は全くかみ合っておらず、憲法違反であるとの指摘に政府は誠実に対応していない」と批判しました。
 
さらに、会の共同代表を務める法政大学の山口二郎教授は「安倍総理大臣は『憲法解釈の変更の正当性、合法性に確信を持っている』と述べたが、『確信』で済むなら議会政治の意味がない。理由と根拠を説明すべきだ」と述べました。 
 
官房長官「合憲性に何ら問題ないと確信」
官房長官は、24日午後の記者会見で「そういう人たちの1つのご意見だろうと受け止める。政府としては、安全保障関連法案は、わが国の安全保障環境が厳しさを増すなかで、国民の生命と平和な暮らしを守るために不可欠なものであり、合憲性には何ら問題ないと確信している。戦後最長の会期延長をしたので、国会で十分な審議時間を取って徹底的に議論を行い、法案を成立させたい」と述べました。
 
 
安保法制関連諸法案の撤回を求める声明
                        立憲デモクラシーの会
2015624
 国会で審議中の安保法制関連諸法案は集団的自衛権の行使を容認する点、外国軍隊の武力行使自衛隊の活動との一体化をもたらす点で、日本国憲法に明確に違反している。このような憲法違反の法案を成立させることは、立憲主義に基づく民主政治を根底から覆しかねない。ここにわれわれは全法案の撤回を要求する
 
集団的自衛権行使容認の違憲
 
政府見解の一貫性
 憲法9条の下で武力行使が許されるのは、個別的自衛権の行使、すなわち日本に対する急迫不正の侵害があり、これを排除するためにほかの適当な手段がない場合に限られる。しかも、その場合にも必要最小限度の実力行使にとどまらなければならない。この憲法解釈は、1954年の自衛隊創設以来、政府見解において変わることなく維持されてきた集団的自衛権の行使には憲法9条の改正が不可欠であることも、繰り返し政府によって表明されてきた。
 
昨年7月の閣議決定
 集団的自衛権の行使を容認した昨年7月の閣議決定は、政府の憲法解釈には「論理的整合性」と「法的安定性」が要求されるとし、「論理的整合性」を保つには、従来の政府見解の「基本的な論理の枠内」にあることが求められるとした。その上で、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」がある場合には、当該他国を防衛するための集団的自衛権の行使も許容されるとしている。
 
論理的整合性の欠如
 しかし、個別的自衛権の行使のみが憲法上認められるという解釈と、集団的自衛権の行使が(限定的であれ)認められるという解釈とを、同じ論拠の上に成立させることはできない。自国を防衛するための個別的自衛権と、他国を防衛するための集団的自衛権とは、本質を異にするものであるからである。
 
法的安定性
 「法的安定性」について、昨年7月の閣議決定は、何ら語るところがない。しかし、ホルムズ海峡での機雷掃海活動が許容されるか否かについて、連立を組む与党の党首間でも見解が異なることを見れば、集団的自衛権の行使に対して明確な「限定」が存在しないことは明らかである。機雷掃海活動を超える武力の行使についても、現政権による発言がどうであれ、法的な歯止めがなければ、その都度の政権の判断次第でいつでも行われうることとなる。
 
砂川判決の意味
 砂川事件最高裁判決を根拠に集団的自衛権の合憲性を主張する向きも一部にあるが、砂川事件は、駐留米軍憲法9条2項の禁ずる「戦力」に該当するかが争われた事件である。したがって、この裁判では日本の集団的自衛権は、全く争点となっていない。最高裁判決の先例としての価値は、具体的争点を基に語られるべきものであり、同判決が日本の集団的自衛権行使について判断しているとの主張は牽強付会である。
 
 要するに、現政権による集団的自衛権の行使の容認は、従来の政府見解の基本的な論理の枠を明らかに踏み越えており、かつ、法的安定性を大きく揺るがすものであって、憲法9条に違反する。
 
2. 外国軍隊等の武力行使との一体化
 
 従来の政府見解は、「後方地域」での自衛隊による外国軍隊等の支援が、憲法の禁ずる武力の行使には当たらないものとするにあたり、自衛隊の活動が他国軍隊の武力行使と一体化しないことと、その活動が「非戦闘地域」に限られることという歯止めを設けてきた。「戦闘地域」と「非戦闘地域」との区分は、ある程度の余裕を見て自衛隊の活動地域を区分しようとの配慮に基づくものであり、実施期間を通じて活動を必ず合憲としうるための工夫であった。
 
武力行使との一体化へ
 今回の法案では、従来の「戦闘地域」と「非戦闘地域」の区別が廃止されている。現に戦闘行為が行われている現場以外であれば後方支援を実施しうるものとされ、自衛隊は、外国軍隊等への弾薬の供与や発進準備中の航空機への給油を新たに行ないうることとされている。もはや他国軍隊等の戦闘行為と密接不可分であり、具体的状況によって、外国軍隊の武力行使との一体化との評価を受けるおそれがきわめて高いと言わざるをえない。
 
3. 国会軽視の審議過程
 
対米公約の問題性
 安倍首相は先の訪米時に、安保法制関連諸法案を今年8月までに成立させるという「対米公約」ともとれる発言を米議会で行った。まだ閣議決定さえされていない段階でのこのような発言は、唯一の立法機関たる国会の権威を損ない、国民主権をないがしろにするものである。
 
対米追随的姿勢
 本法案は内容的には本年4月に合意の「日米防衛協力のための指針」(日米ガイドライン)に沿ったものであり、国会審議でホルムズ海峡での機雷掃海などが強調されている背景に、米国の対日要求があるとも考えられる。条約ですらないものを、いわば憲法の上位に置き、それに合わせて実質的な改憲にも等しい立法化を進めることは許されない。また、このような対米追随ともとれる姿勢は、集団的自衛権行使に関して日本が自主的に判断できるとの政府の主張の信ぴょう性を疑わせる。
 
内閣による国会軽視
 国会審議においても、首相自らが質問者にヤジを飛ばしたり、大臣から「現在の憲法をいかにこの法案に適応させるか」という立憲主義を否定する発言があるなど、政府の対応は、国権の最高機関たる国会を中心とする立憲的な民主政治を尊重するものとはなっていない。
 
4. 安全保障への影響
 
安全保障論のあいまいさ
 昨年7月の閣議決定は、集団的自衛権の行使が容認される根拠として、「我が国を取り巻く安全保障環境」の変化を挙げるが、その内容は、「パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等」というきわめてあいまいなものである。
 
日米安保への過剰な期待
 世界各地でアメリカに軍事協力すれば、日本の安全保障へのアメリカの協力が強まるとの議論がある。しかし、アメリカはあくまで日米安全保障条約5条が定める通り、「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」条約上の義務を果たすにとどまる。大規模な軍事力の行使について、アメリ憲法連邦議会の承認をその条件としていることを忘れるべきではない(米憲法1篇8節11項)。
 
抑止力万能論の陥穽
 日本を取り巻く安全保障環境が悪化しつつあるのであれば、限られた防衛力を地球全体に拡散するより、専守防衛に集中する方が合理的との判断もありうる。また政府は、集団的自衛権の行使容認が抑止力を高め、安全保障に寄与すると主張するが、日本が抑止力を高めれば、相手側がさらに軍備を強化し、結果的に安全保障環境が悪化しかねない(安全保障のジレンマ)。軍拡競争となれば、少子高齢化財政赤字などの深刻な問題を抱える日本は、さらに大きなリスクに直面することになる。
 
国際協調による緊張緩和へ
 平和を維持するには、国際協調が不可欠である。外交交渉や「人間の安全保障」等によって緊張を緩和し、紛争原因を除去する努力を弛みなく続けていくことが、日本にとっての安全保障を導くのであり、抑止力にのみ頼ることはできない。
 
5.  結 
  安全保障関連諸法案は憲法に明確に違反している立憲主義をないがしろにし、国民への十分な説明責任を果たさない政府に対して、安全保障にかかわる重大な政策判断の権限を与えることはできない。ここに全法案のすみやかな撤回を要求する