愛国者ほど国を批判し売国奴ほど国を賛美する

愛国者ほど国を批判し売国奴ほど国を賛美する

 日韓対立の根源になっている韓国人徴用工の賠償請求問題について、安倍首相は1965年の日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決した」と繰り返し述べるとともに、韓国大法院の判決に対して韓国政府を非難してやみません。
 しかしこれは二重の意味で間違っています。
 まず韓国政府が司法が下す判決に介入出来るという点が大間違いです。
 
 次に「日韓請求権協定により完全かつ最終的に解決した」かについては、韓国大法院は、元徴用工の慰謝料請求権は日韓請求権協定の対象に含まれていないとして、その権利に関しては、韓国政府の外交保護権も被害者個人の賠償請求権もいずれも消滅していないと判示しています。
 日本の最高裁も、日本と中国との間の賠償関係等について、外交保護権は放棄されたが、被害者個人の賠償請求権については、「請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて訴求する権能を失わせるにとどまる」と判示しています。
 そして日韓請求権協定によって「被害者個人の賠償請求権が消滅していない」ことは、過去、日本政府も認めているところです。
 
 植草一秀氏が改めてこの問題を整理する記事を出しました。
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愛国者ほど国を批判し売国奴ほど国を賛美する
植草一秀の「知られざる真実」 2019年8月10日
米国のトランプ大統領はときどき良いことを言う。
トランプ大統領が8月9日、「韓国と日本は仲良くしなければならない。協議の席に着くべきだ」「両国は頻繁に対立している。そのことが我々(米国)を困難な立場に追いやっている」と述べたと伝えられた。
 
日本の安倍首相は韓国敵視政策を推進している。韓国の大法院が徴用工問題の裁判で示した判断に対する報復として対韓国通商政策で嫌がらせを行っている。表向きは安全保障上の理由だとしているが、そう考える人はほとんどいない。
在韓日本大使館前の少女像撤去問題、徴用工問題で日韓の主張が異なっている。
日本のマスメディアの大半は、日本政府の主張だけを垂れ流し、韓国が悪いとの色に染め抜いて報道するから世論が誘導されているが、客観的に見れば、韓国には韓国の主張がある。日本に日本の主張があるのは当然だが、評価を下すためには、両者の主張を冷静に検討することが必要である。
 
徴用工問題について安倍首相は1965年の日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決している」とした上で、本判決は「国際法に照らしてあり得ない判断」であるとの見解を示している。これが日本側の主張だ。
しかし、法律専門家からは以下の反論も示されている。
元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明 http://justice.skr.jp/statement.html 「声明」は日韓両国の司法判断について「この問題について、韓国大法院は、元徴用工の慰謝料請求権は日韓請求権協定の対象に含まれていないとして、その権利に関しては、韓国政府の外交保護権も被害者個人の賠償請求権もいずれも消滅していないと判示した。
 
他方、日本の最高裁判所は、日本と中国との間の賠償関係等について、外交保護権は放棄されたが、被害者個人の賠償請求権については、「請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて訴求する権能を失わせるにとどまる」と判示している(最高裁判所2007 年4 月27 日判決)。」とした上で、
「この解釈によれば、実体的な個人の賠償請求権は消滅していないのであるから、新日 鉄住金が任意かつ自発的に賠償金を支払うことは法的に可能であり、その際に、日韓請求権協定は法的障害にならない
安倍首相は、個人賠償請求権について日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決した」と述べたが、それが被害者個人の賠償請求権も完全に消滅したという意味であれば、日本の最高裁判所の判決への理解を欠いた説明であり誤っている。
 
他方、日本の最高裁判所が示した内容と同じであるならば、被害者個人の賠償請求権は実体的には消滅しておらず、その扱いは解決されていないのであるから、全ての請求権が消滅したかのように「完全かつ最終的に解決」とのみ説明するのは、ミスリーディング(誤導的)である。
そもそも日本政府は、従来から日韓請求権協定により放棄されたのは外交保護権であり、個人の賠償請求権は消滅していないとの見解を表明しているが、安倍首相の上記答弁は,日本政府自らの見解とも整合するのか疑問であると言わざるを得ない。」
と指摘している。
 
さらに「声明」は「被害者個人の救済を重視する国際人権法の進展に沿った判決である」として、次のように指摘している。
「本件のような重大な人権侵害に起因する被害者個人の損害賠償請求権について、国家間の合意により被害者の同意なく一方的に消滅させることはできないという考え方を示した例は国際的に他にもある(例えば、イタリアのチビテッラ村におけるナチス・ドイツの住民虐殺事件に関するイタリア最高裁判所(破棄院)など)。
このように、重大な人権侵害に起因する個人の損害賠償請求権を国家が一方的に消滅させることはできないという考え方は、国際的には特異なものではなく、個人の人権侵害に対する効果的な救済を図ろうとしている国際人権法の進展に沿うものといえるのであり(世界人権宣言8条参照)、「国際法に照らしてあり得ない判断」であるということもできない。」
 
他方、慰安婦像の撤去問題については、本ブログ、メルマガで繰り返し指摘しているように、2015年12月28日の日本の岸田文雄外務大臣と韓国の尹炳世外交部長官による、いわゆる「日韓合意」においては、韓国が従軍慰安婦少女像の撤去を確約したという事実が存在しないことを認識することが重要である。
合意のなかに、「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」との表現が盛り込まれことは事実だが、いわゆる従軍慰安婦少女像とされる像の撤去に関しては、
「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、空間の安寧、威厳の維持といった観点から懸念しているという点を認知し、韓国政府としても可能な対応方法に対し、関連団体との協議等を通じて適切に解決されるよう努力する」と発表しただけで、少女像の撤去を確約していない
 
日本はアジアの一国として韓国、中国、北朝鮮との友好関係構築に力を注ぐべきである。
日本が過去に植民地支配と侵略によって近隣諸国に対して多大の損害と苦痛を与えたことは「村山談話」が示すように、日本政府が事実と認めた事象である。
近隣諸国との友好関係を構築するためには、この歴史事実に対する真摯な認識を保持することが不可欠である。この考え方は「反日」と表現するべきものでない。
 
秋嶋亮氏の著書にある「愛国者ほど国を批判し、売国奴ほど国を賛美する」の言葉を胸に刻む必要がある。
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