秘密保護法が立法化されたら、もはや実質的な改憲と言わねばなりません」

「秘密保護法が立法化されたら、もはや実質的な改憲と言わねばなりません」
清水雅彦准教授:watanabe氏」  憲法・軍備・安全保障

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清水雅彦(日体大准教授):

安倍晋三首相はなぜ秘密保護法が必要なのかという「立法事実」に関する説明で、10月17日の参議院本会議では「過去15年間による主要な情報漏えい事件を把握」したからと述べています」

「しかしこの5件については、うち三件が不起訴、または起訴猶予になっています。さらに一つは懲役2年6ヶ月ですが、執行猶予が4年ついている。残りのひとつは、懲役10ヶ月でした」

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「しかも、この5件に含まれる、秘密保護法案制定のきっかけとなったとされている2010年の尖閣諸島沖の中国漁船衝突ビデオ映像の流出事件について、内閣官房は「特定秘密に指定されるまでの秘匿の必要性がない」との見解です。なぜ、これが「立法事実」の根拠となるのか」

「警視庁公安部の国内イスラム教徒に関する捜査関連文書がインターネット上に流出した2010年の事件についても、そもそも公安部は自分たちが作成した文書でないと主張しています」

「これも「立法事実」にはなり難く、すべてが現在の国家公務員法自衛隊法で対処できるのです。このように、秘密保護法が必要とされるような理由は何一つありません。それどころかこの法律が成立すると、憲法の諸原理がことごとく否定され、形骸化されるでしょう」

憲法前文には「主権が国民に存することを宣言」すると明記され、国民主権が謳われています。主権者である国民が国政について知る権利を持つことは当然ですが、秘密保護法はこの権利を根本的に揺るがし、ひいては国民主権を否定することにつながりかねません」

「そもそも日本は憲法九条で戦争をする国家ではないと宣言し、米国のような国と憲法の論理が異なりますから、そうした国のような法律を持つ必要は原則的にありません」

「戦争をする国の法制度に合わせて国家安全保障会議を設置し、それを口実の一つにして秘密保護法を制定しようというのは、平和主義の否定です」

「秘密保護法制定の動きが、改憲と連動しているのは間違いないでしょう。極端なケースでは、海外で自衛隊が戦争や紛争に加わったとしても「秘密」にすることが可能となりかねません」

「この法律は、特定秘密を取り扱う国家公務員や都道府県警察職員、国との契約関係にある民間会社や大学、研究機関職員などを対象にして「適性」を「評価」する制度が定められています」

「しかも、同居人や配偶者、父母・子・兄弟姉妹・配偶者の父母とその子まで「評価」されます。調査項目も犯罪歴や薬物濫用歴、精神疾患歴、飲酒癖、借金情報等が調べられ、プライバシーの侵害は顕著です」

「さらに所属する団体の思想傾向や宗教まで調べる可能性があり、内心の自由が公権力によって侵害されかねません」

「国会に「特定秘密」が開示されるのは、秘密会だけです。そこに出席した国会議員は秘密会以外の場でその内容を取り上げることも、所属する党や同僚議員など自分以外に誰も内容を伝えることすらできない異常事態になるでしょう」

「党として意思決定ができなくなり、国権の最高機関としての国会が官僚の言いなりで動かされることになります。立憲主義が完全に否定され、のみならず、報道の従事者が秘密会に出席した国会議員に働きかけ、内容を知ろうとする行為も罰せられます」

「秘密保護法関連の裁判においても何が秘密かわからずに裁判長が審理を進めなければならず、司法の機能がマヒしてしまいます」

特定秘密に指定されたら、立法府も司法府もそれが本当に「秘密」に値するのか行政府をチェックするのは不可能になる。三権分立どころか、行政府だけが優位となります」

「秘密保護法案の作成・提出を担当しているのは内閣調査室ですが、そこに対して同法案の問い合わせが一番多かった官庁は、調べたところ警察庁でした。おそらく警備・公安の担当者でしょうが、この法律が制定されたら彼らの権限を拡大しようと狙っているのは疑いありません」

「現在わが国で、警察の軍隊化、あるいは警察と自衛隊の融合(治安と軍事の融合)という事態が進行している事実はあまり知られていません」

「今まで一度も起きてはいない「武装工作員の侵入」などという想定で「テロ対策」と称し、警察が軍隊並みの協力な武器を持ち、全国で自衛隊と図上訓練、実動訓練を重ねています」

「ただでさえ活動が不透明な公安警察が「テロリズム防止」を口実に軍事部門まで担って肥大化し、「適性評価」という個人の内偵も公安が担って秘密保護法の運営の主導権を握れば、この国の警察国家化は一層進行するでしょう」

「それが民主主義にとってどれだけ脅威になるか、戦前の例を出すまでもなく明らかです」

「秘密保護法が立法化されたら、もはや実質的な改憲と言わねばなりません

「中曽根内閣時代の1985年には自民党が国会で多数を占めながら、現在の秘密保護法と酷似した国家機密法(スパイ防止法)の制定が阻止されました。これは、国会外で大きな反対運動が組織されれば、悪法も食い止められるという教訓です」

週刊金曜日11月8日