過酷な99%の年金生活(1)兵頭ブログより転載
過酷な99%の年金生活(1)
男は、東京都の林崎春生(71)といわれている。しかし、この事件には不可解な点も少なくなく、まだ判然としない部分がある。
本メルマガでは、政治が極端に劣化した棄民国家で、老後を迎える現実について考えて見る。
1号車のリュックサックには、年金相談の電話番号を記したメモもあった。
林崎春生は、月12万円の年金額では「生活できない」「年金事務所で首でもつろうか」「国会議事堂の前で自殺しようか」などと漏らしていたということだ。
事件前の6月中旬頃には、杉並区の区議に電話で、「家賃が払えない。住民税の通知が来たが払えないし、このままでは生活できない。貯蓄もない」と相談していた。
月12万の年金で、税金を情け容赦もなくとられて(住民税・介護保険等)、風呂なしのアパート代、それに光熱費等を払ったら、4万円ほどしか残らない。これが99%の多くを待ち受けている明日の現実だ。
生き残れるかどうかは、持ち家であるかどうか(月々の家賃生活、あるいは定年後もローンが残っていた場合、きわめて苦しい)、それに車を手放せるかどうか、これが決め手になるようだ。
県警は7月1日、殺人と現住建造物等放火の容疑で林崎容疑者の自宅アパートを家宅捜索した。警察はこれで仕方がないが、東京の大手(「記者クラブ」)メディアもこの「殺人と現住建造物等放火」の線で、あるいはそれ以上の政府広報の線で広報しまくっている。
とりわけ読売系とフジテレビ系がひどい。「ミヤネ屋」では宮根誠司が、「テロ」として発言するなど、ゲストも含めて、ジャーナリズムのかけらもない報道をやっている。
厚生労働省は、2日、2014年の国民生活基礎調査(去年の6月から7月にかけて全国の4万6000世帯余りの調査)を発表した。それによると、生活が「苦しい」と回答した世帯が、去年は全体の62%に上った。昭和61年に調査を始めてから最も高い割合だ。
また、生活が「苦しい」世帯が、全体の62%に上った原因に、非正規雇用の増加が影響していることは間違いない。それでさらに貧困を生む労働者派遣法改悪をやろうとしているのだから、もはや安倍晋三にはまともな人間感覚がないのである。
もともと日本人の自殺率は高く、昨年も世界1位だった。「平成24年における死因順位別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率・構成割合」では、15~39歳の死因の1位が自殺である。とにかく夢を持てない、持たさない国なのだ。それどころか国に殺される状況になってきた。死因の1位が戦死まで、あと一歩だ。
国民の生活意識は、
「大変苦しい」(29.7%)
「やや苦しい」(32.7%)
となっている。合計すると、「苦しい」が全体の62.4%にも上った。
ちなみに
「普通」(34.0%)
「ややゆとりがある」(3.2%)
「大変ゆとりがある」(0.4%)
という結果だった。
ここで、もっと踏み込んで考えてみよう。
『下流老人 ― 1億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)のなかで藤田孝典は、次のように書いている。ちなみに藤田孝典は「下流老人」を「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」と定義している。
藤田は「下流老人の具体的な指標」として「3つの「ない」」を指摘する。
「(1)収入が著しく少「ない」(中略)
若い購読者の皆さんは、これだけで十分に衝撃を受けられただろう。いや、定年を間近に控えた年輩の皆さんも同様の衝撃を受けられたのではないかと思う。高齢者はタンス預金をたっぷり貯(た)め込み、年金生活を悠々自適に送っている、というのは、若者の反感を煽って、高齢者への福祉を削るための物語にすぎない。
この国では宗主国への富の流出が続いている。それを是とし、戦略とする官僚・自民党・経済界・東京の大手(「記者クラブ」)メディアによって、99%は、放射能汚染地帯への帰還・放置や経済徴兵制などによる人口削減の対象になっている。高齢者も若者も、食べるのに必死の貧困層に貶(おとし)められている。
「むしろ年金などの収入が、額面上、生活保護と同レベルなら、実際の生活はそれ以下と言えるだろう」とは、事実である。
続けて藤田孝典は書いている。
また、2013年の国民生活基礎調査では、一人暮らしの場合、12年の等価可処分所得の中央値(244万円)の半分(122万円)未満が、貧困状態ということになる。2人世帯では約170万円、3人世帯では約210万円、4人世帯では約245万円に相当する。その基準以下の収入しかない場合、日本では「貧困」に分類される。下流老人の所得も、概ねこのあたりが目安となる。(中略)さらに、高齢男性のみの世帯では38.3% 、高齢女性のみの世帯では52.3%にもおよぶ。つまり単身高齢者の相対的貧困率は極めて高く、高齢者の単身女性に至っては半分以上が貧困化で暮らしている状況なのだ。
お花畑で考えた、定年を迎えてからの離婚は、どちらが言い出すにせよ、賢明な選択ではないと知っておいた方がいい。飽きた相手でも、たとえ家庭内別居でもいいから添い遂げた方が、自殺あるいは孤老死しないためにも賢明である。時代は、もはやそこまで来ている。子供も、親の面倒をみるためにふたつの家を行き来しなくて済む。