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 すごいのは新薬の研究だけじゃなかった!! 本年度のノーベル医学生理学賞大村智北里大学特別栄誉教授(80)ら計3人が選ばれた。感染すると失明の恐れもある寄生虫関連病の治療薬を開発し、2億人以上の患者を救ったことが評価された。趣味は美術品収集で、2007年には山梨・韮崎市に「韮崎大村美術館」を自腹で開館。ン億円は下らない約2000点のコレクションとともに市に無償で寄贈した。慈愛の精神にあふれ、5日に行った記者会見でも珠玉の名言を連発。人は大村氏を「伝説の男」と呼ぶ――。

 12年にノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥氏(53)をして「ものすごい先生」と言わしめた大村氏とは、一体どういう人なのか。

 受賞の決め手となったのは、寄生虫による感染症の治療法の発見。大村氏は、静岡県のゴルフ場の土壌で見つけた細菌の作り出す物質が、寄生虫に効果があることを発見。1973年からメルクと共同研究し、その物質から薬剤「イベルメクチン」を開発した。

 この薬は、重症の場合に失明することもある熱帯病の「オンコセルカ症(河川盲目症)」や、「リンパ系フィラリア症(象皮症)」の特効薬となり年間3億人が使用。世界保健機関(WHO)は、2020年代にいずれも撲滅できると見込んでいる。しかも大村氏はWHOを通じ、10億人以上にイベルメクチンの無償提供を行い、特許権を放棄。所有していれば、数千億円が転がり込んできてもおかしくはない。

 このほか薬関連のロイヤルティーから得た250億円も本人は「食べるだけで十分」と大半を研究助成や病院建設などに使い、残りを上村松園三岸節子など日本画家を中心とした美術品の収集に充てた。

 07年には生まれ故郷の山梨県韮崎市に新築の美術館を建設。「大村コレクション」と呼ばれる美術品2000点とともに市に丸ごと寄贈した。

 同美術館の担当者は本紙に「先生は『芸術品は自分で持っていても意味はない。子供たちに見せてあげることで初めて価値がある』とおっしゃっていました。研究室では厳しいようですが、ここに来る時は温厚で、館長だからといって偉そうにイスに座っていることはなく、来館者やスタッフと触れ合っています」と話す。寄贈した大村コレクションの総額は優に億単位という。

 この日に行われた記者会見でも、人柄がにじみ出ていた。大村氏は1970年代から各地で土を採取して微生物を分離・培養し、その微生物が作る化学物質に有用なものがないか地道に調べてきた。

 大村氏は受賞の感想を聞かれ「微生物の力を借りてここまでやってこれました」とキッパリ。若者に向けアドバイスを求められると「この道を行くと大変だと分かっていたら、そこに向かいなさい。そうすれば楽しい人生になる」と力説した。

 このほか「失敗を恐れてはいけない。成功した人は失敗を言わないだけで、普通の人の2~3倍はしているから」「人のマネをしたら、その人は超えられない」など、偉人ならではの“名言”を次々と残した。

 大村氏は東京都立墨田工業高校定時制の教師から研究者になった異例の経歴の持ち主。その転機になった出来事についても「定時制高校の学生は直前まで工場で仕事をしている。学校に来る時はすでに疲れていたり、手がオイルまみれだったりする。それなのにきちんと学校に通う姿を見て『自分は何やってるんだ。もっと勉強しないといけない』と感じた」と即答した。

 過去の失敗や苦労に感謝し、特許権を放棄してまで社会貢献に尽力する大村さんは菩薩か、はたまた現代のガンジーか、マザー・テレサか…。

 北里大学の後輩教授は「日本の地方の一大学にすぎない北里大学から、ノーベル賞受賞者が出ることは普通なら考えられない。われわれにも大きな励みになります。大村先生は本当に“伝説の男”です」と羨望のまなざしを送っていた。