「緊急事態条項」って、めっちゃ怖いで…

「緊急事態条項」って、めっちゃ怖いで…

え~、昨日は沖縄県宜野湾市市長選挙のことが気になって、

尻切れトンボのエントリーを書いてしまいましたので

忘れないうちに、続きを書いてみたいと思います


まだはっきりと表明してはいないものの、自民党改憲第一弾の目玉にしようとしてるのが

緊急事態条項」という項目の追加…です

では、早速その内容を、彼らが2012年に発表した「憲法改定草案」から具体的にみていきましょう

(緊急事態の宣言)

自民党改憲案第九十八条
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。


緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。


内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。
また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。


第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
(※「第六十条第二項の規定」とは「予算の議決に関する衆院の優越を定めた条項」です)

ここは緊急事態の「宣言」に関する「手続」を定めたところです

この部分でめっちゃ気になるのは、そもそも緊急事態がどんなときに宣言されうるのか…という部分でありまして

それが抽象的に規定されていれば「なんでも緊急事態の対象となりうる」ということになって

「拡大解釈」という点で、極めて危険な条文になってまうところ、

では、自民党改憲草案ではその部分がどないなってるのか…と言えば、
「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」

「~等による」「その他法律で定める」と、最初からその対象を限定してない規定ぶりなんです

さらに危険だと思うのは、「社会秩序の混乱」という言葉でありまして

これだと、例えば「大規模な抗議デモ」(反政府デモ)が社会秩序を乱す…と認定されかねません

(だって、「何をもって”社会秩序の混乱”とするのか…は、
 すべて、緊急事態を必要とする側が判断することになるんですからね)


でもさぁ、緊急事態の宣言に関しては「(事前または事後の)国会の承認」が必要とされてるし

それが歯止めになるんじゃない?…と思われる方もいるかも知れませんが

国会の承認が得られない場合でも、「緊急事態宣言そのものが遡及的に無効になるわけではない」…ので

「国会の承認」はそれほどの歯止め効果はありません

(それに、議会の多数派が内閣を形成する議会制民主主義を採用する日本では
 内閣総理大臣が宣言したものを国会が承認しない…というコトも考えにくいので
 そういう点でも、事実上、「国会の承認」はあんまり頼りになりません)


では次に、緊急事態宣言の効果を見てみましょう…
(緊急事態の宣言の効果)
自民党改憲案第九十九条
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる


前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。


緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない
この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。


緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

緊急事態宣言が出されると…

・内閣は「国会の定める法律」と同等の(法的)効力を有する政令を制定することができる
(→これは、行政権が立法権を兼ねる…ということで、「三権分立の一時停止」とも言えます)

内閣総理大臣地方自治体の長に対して必要な指示を出すことができる
(→これは、国と地方に争いがある場合に、国の言い分を一方的に地方自治体に押し付ける根拠になります
 →ってことは、「地方自治の一時停止」と言うてもええでしょう)

・何人も、国その他公の機関に指示に従わなければならない
(→これが一番怖ろしい規定でありまして、行政府が警察化して、
  その指示命令に俄然(物理的)強制力が出てくる…ということです)

・国会の任期を伸ばして、議会選挙をいつまでも延期できる
(→この「国会議員の任期延長≒選挙延期」には、期限の制限がない!)

…ということで、ここに緊急事態条項の怖さが凝縮されてると思います


そして、仮に緊急事態宣言が事後的に国会から承認を得られなかった場合でも

「緊急事態宣言そのものは遡及的に無効にならない」ということの帰結として

緊急事態宣言中に行われた「政令の制定」や「地方自治体の長に対する指示」、

「市民に対する指示」「国政選挙の延期」などの効果も

遡及的に無効とはならないことになるわけでして

これだと、内閣総理大臣が暴走して緊急事態を宣言し、その間にいろんなことをしてしまっても

それを事後的に無効にすることができない…というめっちゃ怖ろしいことになってるんです

(前回のエントリーで紹介したtweetでは、社民党の福島議員がこの点について安倍ちんにツッコんでましたけど
 安倍ちんは、その問いにまったく答えてませんでしたので、逆に言えば、
 安倍ちんが、「そういうことだ」…ということを白状したようなもんだとも言えます)


で、自民党が考えてる「緊急事態条項」とは、そういう「何でもアリの怖い条項」なので

最高裁判事も、(そんなことを憲法に書こうとするヤツは)正気とは思えない」と言うてはりますねん↓
「正気とは思えない」 自民改憲草案に元最高裁判事カナロコ by 神奈川新聞 1月21日)

 元最高裁判事の浜田邦夫さんを招き、自民党改憲草案について学ぶ憲法カフェが20日、参議院議員会館で開かれた。安倍政権が改憲の重要項目に掲げる緊急事態条項について、浜田さんは「正気の人が書いた条文とは思えない。新設されてしまえば世界に例を見ない悪法になる」と厳しく批判した。

 憲法カフェは、安全保障関連法に反対する市民団体「ママの会」が企画。野党議員らも参加した。

 浜田さんは、条文の項目に沿って問題点を指摘。〈内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる〉と記された99条1項について、立法府である国会の承認が全くなくても、法律を作れてしまう。緊急事態の効力の期間も定められておらず、永久に政権運営ができてしまう」と強調した。

 さらに、〈緊急事態が発せられた場合、何人も公の機関の指示に従わなければならない〉とする99条3項についても「罰則付きの国民の協力義務となると、憲法上の基本的人権も全く無視される。組織が重要で、個人は組織に従わなければならない、その組織運営は『俺がやる』という発想は独裁政権そのものだ」と問題視した。~


ここまでいろいろ書いてきましたけど、ぼく、「緊急事態条項」をわかりやすく言うたら

それは「戒厳令」みたいなもん…と素朴に思ってるんです

戒厳令って言うのは、非常時に「統治権を軍に委ねること」…であるところ

緊急事態条項は、非常時に「統治権を行政府に委ねること」…なので、少し違うように見えますけど

行政権は「警察権や軍事力を背景にしてる」ので、両者は結局、おんなじようなもんです


この点、海外でどんなときに「戒厳令」が敷かれるか…と言えば

それは「非常事態だから」…という客観的事情からではなくて、

軍が統治権を掌握したいから…という主観的事情からくるものがほとんどであろうかと思います

とすると、それは「緊急事態条項」もおんなじ…でありまして

それは、「緊急事態だから」という客観的事情(必要性)から出される…のではなくて

行政府が統治権を掌握したいから…という「主観的事情」から出されることでありましょう

(このように、「戒厳令」と「緊急事態宣言」はいずれも「それを欲するモノが発することができる」という、
 もともと「歯止めがきかない制度」になってるので、それが一番怖いことかと思います)



※緊急事態宣言をフクイチ核発電所事故で考えてみますと、

仮にフクイチ大惨事の前に、この緊急事態条項があったとすれば…

・個人の核発電所事故に関する情報発信の禁止(=核発電所事故に関する情報は国が一元的に管理し統制する)
・それを守らない者への罰則
・物理的な発信禁止(=ネットの遮断など)

…という、情報統制の手段として使われたり、

自主避難の禁止(=自宅待機を物理的に強制されることになる…ってことは、
          例えば、自宅の前に警察や機動隊員が立ってる…とか
          道路に検問が設けられて、移動を禁じられる…なんてことです)

…という、誠に怖ろしい話に繋がってたことは必至だろうと思います


このように、情報統制と物理的強制力がくっつくと、

もう、市民の側には身を守る術がなくなる…のも同然でありまして

そういうことを考えますと、緊急事態宣言というものが、

いったい誰のために出されるものなのか…ということが、よりいっそうわかってくるのではないでしょうか

(こんなん、「市民のため」に出すんじゃなくて、「為政者のため(=不都合を隠すため)」に出すもんでしょ)



※ぼく、前回のエントリーで「日本のことを話すときに、ナチスドイツを引き合いに出す」という

日本のメディアがよく使うコトをしてしまいましたので、修正の意味を込めて、

「日本のことを話すときに、過去の日本を引き合いに出す」ということをしてみたいと思います


思い返してみれば日本にも過去、ナチスの全権委任法の代わりになるような法がありまして

それを思いつくまま挙げてみますと…

①「国家総動員法」…これは「戦争遂行のため」という目的ではありますが、

国家のすべての人的・物的資源を政府が統制運用できる(総動員)旨を規定した法…ですので

「社会秩序の維持のため」という目的で行政権が市民を統制できる緊急事態宣言に通じるものがあります


②「治安維持法」…これは端的に「政府批判の禁止法」であるところ、

これまた、情報統制が予定される緊急事態宣言に通じるものがあります


③「国防保安法」…これは要するに「不都合な事実の秘密保持法」でありまして
 
これは現在、「特定秘密保護法」という法律に姿を変えているところであります


④「大政翼賛会」…これも、「戦争遂行のため」という目的ではありますが
 
皆が政府の元に一つにまとまって政府批判はしない…というものでありますから

現在の「大政翼賛メディア状況」が、既にこの機能を果たしているところです


…と簡単に振り返ってみても、昔、戦争遂行のために整えられた法や制度が

今、「緊急事態条項」でよみがえろうとしてる…というか、

そのうちの一部は既によみがえってる…という、めっちゃ怖ろしいコトになってるので

自民党(とおおさか維新と公明党)が予定する改憲第一弾の「緊急事態条項の新設」は

戦前の体制へ逆戻りする仕上げ…というても過言ではないと思います