原発差止判決」を書いた元裁判官,官邸前で訴える

原発差止判決」を書いた元裁判官、官邸前で訴える
 数ある原発差し止め訴訟で次々と原告住民側が敗れる中で、ただひとり「原発差し止め」判決を書いた裁判官がいる。その2006年3月の判決文では、多重防護策が有効に機能しない可能性や炉心溶融事故のおそれが指摘された。判決はその後高裁で覆(くつがえ)され、最高裁で原告敗訴が確定したが、判決文の中で指摘された重大な原発事故は、判決からわずか5年後、現実のものとなった。
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文部科学省前で、「ふくしま集団疎開裁判」の支援者らに紹介される井戸弁護士。(撮影・三上英次 以下同じ)
 勇気ある判決文を書いた金沢地裁の井戸謙一裁判長(当時)。いまは滋賀県で弁護士として多忙な日々を送る井戸氏が、8月24日に上京し、官邸前で福島原発事故についてマイクを握った。以下はその要旨である。 
  今回の福島での事故、原発事故が起きてしまったということもたいへんショックでしたが、それにもまして、私は2つのことに大変驚きを禁じえませんでした。 
 ひとつは、これほどまでに国が国民を守らないのかということです
福島の人たちにヨウ素剤を配らない、スピーディ(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータを隠す、そして、極めつけは年間20ミリシーベルトまでの被ばくを国民に強要するという姿勢です。もともとの年間放射線量の許容限度は1ミリシーベルトなのです。その20倍もの放射線量を、子どもたちを含めた国民に強いるなどいうことは断じて許されません。 
 今後、「第2のフクシマ」を起こさないということは大事なことです。しかし、それ以上に大切なのは、
いま、現に苦しんでいる人たち、放射能の危険にさらされている人たちを助け出さなければいけないということです。 
 ソ連は事故から5年経って、避難活動を本格化させました。いまなら、フクシマは事故から1年半です。今からでも遅くありません。放射能の被ばくは少なければ少ないほどよいのです。まだ間に合います!
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文科省前で、伝統的な福島盆おどりをおどって「集団疎開」も何もしない文科省に抗議の意を示す人たち。列のいちばん後ろにゼッケンをつけた柳原弁護士の姿が見える。そのゼッケンにはこう書いてあった。「福島の子どもたちの、言葉にならない言葉に、どうぞ耳をすませてください」
 
ふたつめの驚きは、政府が平然と国民の意思を無視し続けていることです日米安保の時、岸首相は「安保に反対しているのは、ごく一部だ」と言い(自らの立場を正当化しようとし)ました。しかし、今のこの状況を見れば、大多数の国民が、国の原発推進策に反対していることは明らかです。 
 子力規制委員会の人事を見てもそうです。いわゆる「原子力ムラ」の人間を、委員会の過半数を超える委員に任命するなど、まともな人事のはずがありません。 
 
いったい誰のために政治をしているのか?
 何のために政治をしているのか…と強く疑問に思います。
 
 ◇
  続いて、その井戸弁護士とともに「ふくしま集団疎開裁判」で代理人を務める柳原弁護士からも、「マスコミが報道しないこの裁判について、多くの人に知ってもらいたい」とあいさつがあった。
 わわざわざ滋賀県から駆けつけて、官邸前の抗議行動の熱気を感じた井戸弁護士、あふれかえる人波について「今日初めて見て、人の多さに驚きました。これだけの人たちが集まるというのは、それだけの危機意識を人々が持っているということでしょう。こうやって一般の人たちが行動を起こし続けるというのは、ある意味で希望ですね」 
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井戸弁護士は最終の新幹線で滋賀にとんぼ帰りだったが、それにはわけがある。翌25日には、彦根市で初めて反原発の抗議集会が開かれ、それに参加するのだという。
 2006年の差し止め判決文を見て、長年の友人でもある柳原弁護士は興奮して井戸氏に電話をかけたという。よくあそこまでふみこんだ判決が書けたな――そういう思いで理由を尋ねると、受話器の向こうで井戸氏はこう答えたそうである。
 「あの判決文は私が書いたんじゃない。ペンを握る私の手のうしろにいた、たくさんの市民の熱意があの判決を書かせたのだ。サイレント・マジョリティーがあってはじめて、あの判決が書けたのだ」
 (了)
 
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文科省前での抗議行動は、毎週金曜日17時から行われる。写真は、たれ幕をかかげて井戸弁護士の言葉に耳を傾ける人たち
   《関連サイト》
◎井戸弁護士、柳原弁護士らが代理人を務める「ふくしま集団疎開裁判」のサイト。4月26日に福島県から発表された「福島県民健康管理調査」では13市町村の3万8000人の子どもたちの、何と38%に「のう胞」が発見されている。詳細は下記サイトにて。
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24日は共産党の志位委員長も官邸前で反原発を呼びかけた。志位委員長の向かって左に井戸弁護士の姿が見える。
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