国民国家なんてどうなっても構わない」と思っている人たちが、国民国家の政策を決定している。  「内田樹の研究室」より

 
内田樹の研究室」は一日当たり数万人の閲覧者がいるブログです。最新記事「東北論」に福島原発事故に関する言及があります。


 本来であれば国を挙げてどうやって被災地を支援していくか、どうやって復興の手だてを考えるかということに集中すべき時期なのに、みんな考えたくない。
問題を直視しようという意欲を日本人自身がなくしているということだと思います。安倍政権の支持率は70%ですよ。
東北の問題をばっさり切り捨てている人を国民の70%が支持している。東北の復興が日本にとっての最優先のイシューであるという認識がもう国民にはないんだと思います。それよりもTPPと株価と改憲尖閣問題とか優先してきている。(中略)
 今回、福島の原発事故でいったいどれぐらいの国富を失ったのかまだ試算してないですよね。国土の何分の一かが、これから向こう何百年間か居住不能になるんです
尖閣とか竹島とか言っているけど、そんなのただの岩礁でしょう? でも、福島って、そこに何十万も生活者がいて、そこを生活基盤にしていた国土なんですよ。それが原発一個で失われた。われわれは国土を失ったんです
 その被害を考えたら、原子力発電が火力発電に比べて多少発電コストが安いからと言って、そんなの桁違いじゃないですか。被災者にまともに補償しようとしたら、これまで火力との差額で原発が稼いだ分なんて、全部吹っ飛んじゃう。経済的に考えても、原発はまったく間尺に合わないビジネスだったことが明らかになった。
 
とくに国土の喪失。これに関しては誰も何も言わない。尖閣とか竹島とかいう話になると「寸土も譲らず」とか息巻く人たちも、福島で失われた国土については何も言わない。でも、どう考えても福島で失われた国土の方が巨大な損失なわけでしょう? 
 この損失は原子力行政がもたらした被害なわけですよ
愚かな原子力行政が国土喪失をもたらした
仮に今からもう一回大きな地震が福島を襲ったら、次は東京も居住不能になるかも知れない。原発再稼働派の人たちは「東京も住めなくなっても、まだ原発をやる」という覚悟があるんでしょうか(中略)
 
 僕たち日本国民は日本列島から出られない。ここで生きていくしかないと思っている。だから、国土が汚染されたら困るし、国民の健康が損なわれたら困る。でも、グローバル企業には気づかうべき国土もないし、扶養しなければいけない国民もない。誰のことも気づかわなくていい。株価のことだけ考えていればいい。
 それはそれでしかたがないんです。そういう商売なんだから。
でも、問題なのは、そういう人たちが国民国家の政策決定に深く関与しているということです。
国民国家なんてどうなっても構わない」と思っている人たちが、国民国家の政策を決定している。これはちょっとひどい話でしょう?
 
―「2013.04.22 東北論 内田樹の研究室」http://blog.tatsuru.com/2013/04/22_0928.php