ママが知りたい憲法の話その5「日本国憲法は、GHQに押しつけられた・・はウソ」

久しぶりに前回の講演の続きをアップします。
この講演録は、奈良市放射能測定室のスタッフの方からの提供です。
(ふたさん、大変な書き起こしをありがとうございました。)
 
1. はじめに
2.憲法の意義
3.憲法の改正
4.改憲問題の現在
~今回ここから~

【なぜ、改憲が必要なのか?ー改憲派の言い分】
そもそも、なぜ日本国憲法を改正する必要があると、改憲派は言っているのでしょうか。その理由を何と言っているのでしょう。
「改正」といっても、中身は改悪です。
国民主権、人権尊重、平和という観点からすると中身は改悪なわけですから、彼らも「改正」の必要を理屈づけるのが難しいと思うんですよ。
そこで、どうしても屁理屈になるわけです。
屁理屈の第一がこれです。
日本国憲法は、67年前に作られてから一度も改正されていないから、古い、時代遅れだ」。
本当にそうなのでしょうか。これに関して、興味深い新聞記事があります。

日本国憲法は世界の最先端をいっている】

去年の5月3日憲法記念日に、朝日新聞に掲載された記事です。見出しは、「日本国憲法 今も最先端」。長い記事なんですけど、要点を抜き出します。
アメリカの二人の大学教授が、成文化された世界のすべての憲法188ヶ国分の国民の権利とその保障の仕組みを項目ごとにデータ化して、国際的な変化が時代別にわかるようにした……
日本国憲法は、世界で今主流になった人権の上位の19項目までを満たす先進ぶり。……分析した教授は、65年も前に画期的な人権の先取りをした、とてもユニークな憲法といえる、と話す〉
新聞記事の一番最後の結びの部分はこうなっています。
〈日本では、米国の「押し付け」憲法を捨てて、自主憲法をつくるべきだという議論もある。それについてロー氏(←二人の大学教授のうちのひとり)は「奇妙なことだ」と語る。「日本の憲法が変わらずにきた最大の理由は、国民の自主的な支持が強固だったから。経済発展と平和の維持に貢献してきた成功モデル。それをあえて変更する政争の道を選ばなかったのは、日本人の賢明さではないでしょうか」〉

【なぜそのような憲法ができたのか ー「世界史の贈り物」】

どうして、そのような憲法をつくることが可能だったのでしょうか。それは、GHQのスタッフが、イギリス憲法思想、アメリカ独立宣言、アメリカ合衆国憲法、フランス人権宣言、ワイマール憲法ソビエト憲法、その他の世界中の憲法典などから最良の情報を求めて憲法の草案を作った、という制定過程に理由があるのです。
世界史の贈り物」という言い方は、亡くなった井上ひさしさんが言った言葉です。
しかし改憲派は、逆に、日本国憲法というのはつぎはぎで、日本の伝統や文化にそぐわない、情けない憲法だと非難するのですが、私はそうは思いません。「世界史の贈り物」というのが正しい評価だと思います。

【本当に、「日本人が作った憲法ではない」のか?ーそうではない!】

日本国憲法を改正しなければならないとする屁理屈の第二弾は、日本はGHQ主導で作った憲法ではなく、日本人自身の作った憲法で治めるべきだ、というものです。
日本国憲法は、戦勝国によって押し付けられた、違法な憲法であり、無効にすべき、というのが石原慎太郎都知事です。
無効かどうかはおくとしても、とにかく「自主憲法」を作るべきだ、というのが第二の理由です。自主憲法制定は、自民党の結党以来の党是です。
では、この理由づけは本当でしょうか?
いや、そうではありません。日本人は、日本人自身で、2種類の自主憲法案を作りました。そのことをきちんと認識しなければならないと思います。
では、2種類の自主憲法案とは、なにか。

一つは、民間人や革新派の政党の作った、国民主権・人権保障を内容とする進歩的な新憲法案。これは、日本国憲法と合致した近代憲法です。
憲法案は、1945年11月11日の共産党の「新憲法の骨子」が一番最初で、次に「憲法研究会」という民間の研究グループによる「憲法草案要綱」が1945年12月に作られました。
ほかにも、高野岩三郎の「改正憲法私案要項」が1945年12月28日、そして共産党の本格的な「日本人民共和国憲法草案」が1946年の6月29日にできています。
これらは、国民主権・人権保障を内容とした、日本国憲法と性質を同じくする憲法案であり、そういうものを日本人自身が「自主的に」作ったんです。
*1
もう一つは、政府が作った明治憲法改正案であり、天皇主権を維持した保守的なものでした。
元首である天皇が、臣民たる国民に与えた帝国憲法を微修正するという憲法案です。こちらの「自主憲法」案、これらはいずれも明治憲法の手直しにすぎませんでした。

GHQ案の起源となった「憲法草案要綱」 ー高野岩三郎ほか】

さて、第一の進歩的な新憲法案のうち、憲法研究会という民間グループの作った「憲法草案要綱」がGHQに大きな影響を与えています。
そのあたりの事情については、その要綱を作った中心人物の鈴木安蔵さんを主人公にした『日本の青空』という映画に取り上げられています。とてもいい映画で、いま、多くの市民がみるべき映画です。
その「憲法草案要綱」というのはすごく進歩的な内容で、GHQが、日本の政府に民主的な新憲法を作る能力がないと悟り(*1参照)
自分たちで新憲法案づくりに乗り出したさい、それを下敷きにしたことがわかっています。
中でも重要なのは、日本国憲法の大きな特徴である象徴天皇制度、そのアイディアは、その憲法草案要綱からきています。
それから、25条1項の「生存権」の規定。これも、要綱から採られています。〈国民ハ健康ニシテ文化的水準ノ生活ヲ営ム権利ヲ有ス〉。
GHQが採用したのではなく、憲法改正を審議した帝国議会で、日本人の手で入れられたのです。
そのほかにも、GHQ案に明らかな影響を与えた規定文言が満載されています。
他方で、日本国憲法には生かされなかったけれども、驚くべき進歩性および先見性にあふれた規定もありました。
全国一区の比例代表制とか、直接民主制の数々などですが、きわめつけは、「消費税偏重の禁止」という規定です。
〈租税ノ賦課ハ公正ナルヘシ 苟(いやしく)モ消費税ヲ偏重シテ国民二過重ノ負担ヲ負ハシムルヲ禁ス〉。
すごいですよね、70年後の日本を予想していたような規定です。

日本国憲法がつくられた過程のまとめ】

以上を要するに、日本人は大別して二種類の憲法を自ら作りました。
一つは国民主権・人権保障を内容とする進歩的な新憲法案。もう一つは天皇主権を維持した保守的な明治憲法改正案。
前者は、民間人と革新的な政党が作り、後者は政府と保守政党が作った。
GHQは、政府の明治憲法改正案を拒否し、民間人と革新政党の作った新憲法案を支持して、その内容と方向性に沿った新憲法の原案を、世界の?憲法をも参照しつつ、作り上げたんです。
そのことをクローズアップして、さきほどのべた映画『日本の青空』は作られています。
映画の中で、「日本国憲法って、自主憲法だったんですね!」というセリフが出てくるんですけど、そういう面が疑いなくあるんです。

つまり、憲法制定の過程において、GHQと進歩的民間人・政党の間に、言いかえると、占領軍と被占領国の人民との間に、世にも珍しい「同盟関係」が生まれたんです。人民の側はそれを知りませんが、GHQのほうは、自覚的にそれをやりました。
そうして、日本国憲法の原案が生み出された。そしてそれが、GHQの権力によって、明治憲法の改正しか頭になかった政府に対して「押し付けられ」たのです。
そのことに対して恨みを持ち続けているのが、自民党のおじさんたちなんですね。

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?ここまで。
次は 5.《自民党の改正案の検討》に続きます。 乞うご期待。