「IS邦人人質事件」検証委員会は追認委員会だった…

検証委員会は追認委員会だった…

「IS邦人人質事件」での政府の対応を検証する「政府の検証委員会」の報告書がまとまりました

その大まかな結論は「政府の判断や措置に人質救出の可能性をそこなるような誤りがあったとは言えない」…

というもんで、要するに「政府の対応は悪くなかった」と言うてはるんですね


そんでも、物事の「検証」というもんを「当事者」がしたんでは内輪の論理(=かばい合いの精神)が

幅をきかせることになるので、「検証」は「当事者ではなく、かつ利害関係者でもない第三者」に任せる…

というのが、世間の常識というもんです


しかし、世間の常識というもんが通用しないのが、この国の政府…でありまして

政府の対応の検証を政府内部の人間にやらせた…

それも、人質事件の当事者中の当事者たちである、内閣官房副長官警察庁出身)、
内閣危機管理監国家安全保障局長、内閣情報官、内閣官房副長官補、国家安全保障局次長、警察庁警備局長、外務省大臣官房長、外務省中東アフリカ局長、防衛省運用企画局長…
をずらりと並べて、今まで長い時間かけて政府の対応を検証してきたんでした

(と書いてきて、ぼくは、こんなん、「政府の対応を検証した」んじゃなくて、
「自分たちの対応を自分たちで振り返ってた」だけやん…と素朴に思います)


だから、この自称「検証委員会」が真の意味の「検証」などできるわけも、する気もないのも

メンバーを見たら最初からわかってたわけで、

政府の「検証委員会」は「追認委員会」でしかなかったのでした


政府は、検証委員会のメンバーを政府内で固めたことについて「秘密の保持の必要性」なんて

もっともらしいことを言うてますけども、「(特定)秘密」なんて大げさな話をするまでもなく

ぼくたちが新聞報道で目にする範囲で判断したって、

政府の対応がまずかったことは明らかだと、ぼくは思ってます

それを「政府の対応に誤りはなかった」って言うねんから、あの人たち…)


それに加えて、申し訳程度に「有識者」の意見も聞いとこ…ということで

5人の有識者なる人たちからの「意見聴取」も行われたんですけども

その中には、イスラム研究者でありながらイスラムへの偏見を隠さない池内恵…とか

安倍ちんお気に入りのヤメ官僚の宮家邦彦…なんかがしっかり入ってましたので

やっぱり、政府の対応の「検証」には、ほとんど役に立ってはくれなかったんです


で、政府の検証委員会がまったく検証をしてくれないので

ここからぼくの「検証」を書いていきますと、

今回の人質事件における政府の対応でぼくが一番疑問を持ったのは

ISという組織による人質事件の一方当事者であるべき日本政府が

最後まで当事者になろうとしなかった…ということなんです


つまり、政府は最初から最後まで、人質を取ってるISと直接交渉することをせず

(→それは、ISが「理性的な対応や交渉が通用する相手ではない」からだそうです)

人質の親族だけにその対応を任せて、およそ「政府としての責任を放棄していた」んじゃないのか?

…というのが、ぼくの最大の疑問なんです


だって、ISが「理性的な対応や交渉が通用する相手ではない」なら

それは人質となった人の家族にとってもおなじことなのに

なぜに人質の家族にだけISとの交渉を丸投げすることができるんです?

(そんなアホな話がありますか?)


それに、ISがホントに「理性的な対応や交渉が通用する相手ではない」のであれば

例えば、いったんISの人質となった人たちは、すべて殺害されるという結果になったのか?

…と言えば、そんなことはまったくなく、日本と同様にIS(≒テロリスト)とは一切の交渉はしないとする米国や英国、ロシア以外の国々の人質は、めでたく解放されてるやないですか↓

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(この事実はいったい何を意味してるんです?
 それは「ISは決して交渉がまったく通用しない相手ではない」ってことでしょ)


日本政府は自分たちが何もしなかったこと(=直接の当事者になろうとしなかったこと)の言い訳として

ISが「理性的な対応や交渉が通用する相手ではない」と、(一見もっともらしいことを)言うてるんですけど

およそ「人質事件」を起こすような人たちは、その時点で「理性的でない」のは当たり前の話で

日本政府のこの(一見もっともらしい)言い分は、単に、

自らの責任放棄の理由を相手方になすりつけてるだけの話です

(それだけではなく、ISとの直接交渉を人質の家族になすりつけてるし…)


また、人質事件の犯人がISであることがわかった後に、

安倍首相が、ムスリム同胞団を弾圧してるエジプトや、ISのみならず多くのイスラム教徒にとって

敵国とされるイスラエルを訪問し、エジプトでわざわざ

「ISILと闘う周辺諸国に2万ドルの支援…」という演説をぶつのは

人質の命をさらに危険にする「思慮なき軽率な振る舞い」であったと言えるでしょう


この振る舞いに関して政府は、中東訪問を中止すれば、

「ISによる人質事件というテロ」に屈することになる…と、

これまた一見もっともらしいことを言うてますけど

「テロに屈しない姿勢を示すこと」と「現に人質になっている邦人の安全」では

後者をより優先すべきであるのは、当たり前のことやないですか

(それなのに政府は、前者を優先したんですよ!)


そして、もう一つ、忘れてはいけないことがあります

検証委員会は、「政府の判断や措置に人質救出の可能性をそこなるような誤りがあったとは言えない」

…と言うてますけども、イスラム法学者が人質解放に向けた交渉に名乗りをあげた際に

日本政府はその申し出を無視した
…し、それ以前にも

イスラム教徒である日本のジャーナリストが湯川さん救出のために中東への渡航を準備していたのに

北大生がISILに参加しようとした…という事件?で公安がこのジャーナリストの家宅捜索をし

パソコンなどをごっそり持っていったもんだから、渡航が難しくなった…ということもあったので

日本政府は「自ら人質解放交渉の当事者となることを拒んだ」だけではなく

「自ら人質解放の可能性を潰した」ということにもなってるんです



そして、そういう「考えられない姿勢」は、実は、人質が殺害された後にも続いてまして

後藤さん遺骨返還:ISと交渉の弁護士、日本が入国拒否(毎日新聞:2015年04月30日)

 新右翼団体「一水会」の木村三浩代表は30日、イスラム過激派組織「イスラム国」に殺害されたとみられるフリージャーナリスト、後藤健二さん(47)の遺骨の返還交渉をIS側と行っているとされるヨルダン在住のムーサ・アブドラ弁護士が、外務省に入国ビザの交付を拒否されたことを明らかにした。木村氏は「政府が遺骨を拾おうとの意思を持たないことが明白になった」と述べた。

 木村氏は3月にヨルダンでISとの人脈を持つムーサ弁護士と会い、遺骨などの返還を依頼。ムーサ弁護士は4月中旬に来日し、交渉の進展状況を説明することになっていた。しかし、外務省が入国ビザを交付せず、理由も説明しなかったという。外務省外国人課は「個別事例についてはお答えできない」としている

日本政府は、人質の遺骨収集に向けた努力さえ放棄し、それどころか

三者による遺骨収集の動きさえ邪魔してる…ということです



この検証委員会は、このような政府の失態や責任放棄、そして、

人質解放の可能性を自ら潰すような信じられない行動を完全にスルーして

政府の対応を追認する
…という、それだけでもあり得ない厚顔無恥な報告書」をまとめる一方で

今後の「政府の課題」として(海外での)情報収集体制の強化…や

危険な地域への(より強力な)渡航抑制などを掲げてるんですが

自らの失態を権限強化に結びつける…というのは、二重にふざけた話であると思います




※参考資料

 後藤さんを殺害したとする映像が公開された4日後の2月5日、首相は参院予算委員会で「国連決議があるから、テロリストにお金を国として払うことは決議に反することになる」と強調した。

 国連安全保障理事会は2014年1月、加盟国がテロ組織に対する身代金の支払いに応じないよう求める決議を採択した。一方、決議を守らなかった場合の明確な罰則規定はない。14年11月に安保理に提出された報告書によると、ISが最近1年間で得た身代金の推定額は約41億~53億円にのぼり、「水面下の交渉」が行われているのは「公然の秘密」と言われている。(朝日:2015年4月23日)

人質の命よりも、誰もが「建前に過ぎないとわかってる(罰則のない)国連決議」を優先する…

安倍首相がそう言ってることを、ぼくたちは忘れたらあきません

(そんな人が語る「安全保障」って、いったい何なんでしょうか…)


自己責任論」など議論 政府のIS人質事件検証委(朝日:2015年4月29日)

 過激派組織「イスラム国」(IS)による邦人人質事件で、一連の危機対応を検証する政府の委員会が28日、中東地域や危機管理が専門の有識者5人と会合を開いた。指揮系統や官房長官による対外発信のあり方、危険地域に渡航するという「自己責任論」などについて議論した。~

人質事件の政府の対応を検証するための委員会は、

不幸にも人質となった人の「自己責任」も検証してはったようです…



ひとさまのtweetから…
海外特派員協会の「報道の自由賞」の審査員を御指名されたので表彰式に参加中。今回後藤健二さんが殉職した英雄賞を受賞。昨日の検証委員会の発表に後藤さんのお母様から声明が届いていました。

http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mzponta/20150524/20150524220847.jpg


安倍総理、梯子を外された。
どうやって降りてくるのかな?二人も死なせておいて。

AFP◆米国、身代金支払い禁止の方針緩和へ ABC報道
http://www.afpbb.com/articles/-/3046561?ctm_campaign=txt_topics

「米国人人質の家族が国外の拉致犯らと連絡を取ったり、資金を集めて身代金を支払ったりすれば罪に問うとしていた米当局の方針が撤廃される見込み」
「米国の人質政策における大きな方針転換」