自民党「言論統制三人組」は本当に処分を受けたのか?

自民党言論統制三人組」は本当に処分を受けたのか?

ことの発端は、安倍首相に近い自民党の若手がつくる「文化芸術懇話会」(代表=木原稔・党青年局長(当時))が6月25日に開いた、百田尚樹氏を講師に招いた勉強会で、百田氏が暴言をくり返すとともに、出席した議員らが憲法21条で保障された表現の自由報道の自由)を抑圧する言論統制発言をしたことです(詳しくはこちら)。憲法尊重擁護義務を負う国会議員がこのような発言をするのは二重に憲法違反です。

「処分」の内容

http://rpr.c.yimg.jp/im_sigga5MAmgvv5KVjevpzoflzrw---x280-n1/amd/20150703-00047198-roupeiro-002-5-view.png 福岡の青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある、と豪語する井上貴博議員

自民党の党則、規律規約上の扱い

木原議員に対する役職停止措置は党規律規約上の処分と言えそうですが、一方の言論統制三人組が受けたとされる「処分」はいかなる意味を持つのでしょうか。
http://rpr.c.yimg.jp/im_sigg5t1KjzbSvTEcghKCQaagZg---x280-n1/amd/20150703-00047198-roupeiro-003-5-view.png 沖縄の特殊なメディア構造を作ったのは戦後保守の堕落、という長尾たかし議員
自民党は党内部を規律する「党則」「党規律規約」を公開しています。党則92条3項では、国会議員が「党の規律に反するとき」などと認めるときは、幹事長が党規律規約に基づき処分を行えます。つづいて自由民主党規律規約9条3項には、幹事長が行う処分として「党則の遵守の勧告」「戒告」「党の役職停止」「国会及び政府の役職の辞任勧告」の4つを定めています。つまり「厳重注意」という処分は存在しないのです。党規律規約14条には幹事長が「注意を促す」という措置がありますがこれは処分ではありません。察するに、言論統制三人組は、幹事長に呼び出されて絞られた(注意を促された)だけで、実は自民党の組織上の処分すら受けていない可能性があるのです。「注意」と「厳重注意」に違いがあるかも疑問です。意味のない装飾をして、あたかも厳重な処分がされたかのように世論をミスリードしているようにも見えます。
ところで、民間の労使関係でも、就業規則上の懲戒処分に至らないような問題行為について「注意処分」をすることはあります。しかし、そういう場合でも、始末書・報告書の類を提出させるのが普通でしょう。自民党は、今回、せめてそういう措置を取ったのでしょうか。
谷垣氏も当初は「主張のしかたには品位が必要だ」と述べており、発言内容そのものが重大な問題であることを認識しているのか疑問です。党執行部からも当初「青年局長の更迭は当然。世が世なら切腹ものだ。」という発言が出ていましたが、これは誰に対して「切腹」するのかと言えば、文脈からすれば、やはり迷惑をかけた自民党安倍晋三総裁)に対してではないか、という疑念が生じます。
この体で、国民に対して謝罪できるわけもないのです。

二度目も「厳重注意」

http://rpr.c.yimg.jp/im_siggK3vAXHtFbT5mMncjzoI6yg---x280-n1/amd/20150703-00047198-roupeiro-001-5-view.png 何度でも言います!という雰囲気がある大西英男議員
言論統制三人組の一人である大西英男議員は「厳重注意」を受けた後でもう一度、報道機関を恫喝する憲法違反の発言をしました。今度こそクビか、と思ったら、驚くべきことに、二度目も「厳重注意」でした。
通常、刑事司法でも、再犯の場合に刑が重くなります。一般的に、共犯者の中では、実際に行為をした者、主導した者の責任が重くなります。言論統制三人組の発言を誘発したとも思えない木原議員が役職停止になる一方、憲法違反の発言を「注意」をはさんで二度もした人物を再度「注意」で済ませ、組織内で何の制裁もうけない自民党にはそういうセンスが欠落しているように思えます。

内輪に広がる波紋

一方、自民党内では逆方向の不満・批判が巻き起こっています。

言論統制発言をくり返す理由

安倍首相はこの問題で国民に向かって一度も謝罪していません。「報道が事実なら大変遺憾だ。(勉強会は)党の正式会合ではない。有志の会合だ。発言がどのように報道されたかは確認する必要がある」「成り代わって勝手におわびできない」などと言い訳をするばかりです。誰も成り代われとは言っていませんよね。自由民主党の総裁(代表者)として所属議員がした言論統制発言の責任を取るべきなのです。身内で事実を確認できるはずなのに、発言内容ではなく、報道内容を確認する、と言っている点には、危うさすら感じます。
一方で、安倍首相は、同じ与党の公明党に対しては「わが党の議員のことでご迷惑を掛けて申し訳ない」と陳謝しています。安倍首相には「国会審議が乱れる」ということを連立パートナーに謝罪する頭しかないのです。
そして、上記のように、幹事長である谷垣氏が下した処分について不満を述べる始末です。
結局、言論統制三人組は、本当は処分を受けていない可能性がある上に、安倍晋三自民党総裁以下の幹部がむしろ後ろから擁護し、党の代表者である安倍晋三氏が国民に対して謝罪すらしないため、大西英男議員による二度目の言論統制発言に至ったと言えるでしょう。何よりも怖いのは、こういう政党が、大多数の憲法学者からも、過半数の国民からも憲法違反だと言われている法案をごり押ししようとしていることです。
各マスコミは言論統制三人組が自民党から処分を受けた、という報道自体が誤報だったとして取り消してはいかがでしょうか。と書いたところで、NHKはまた「4人が処分を受けた」と報道しました
1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なの何でもこなせるゼネラリストを目指しています。残業代を軸に社会と会社を分析する『ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか? ナベテル弁護士が教える残業代のカラクリ』(旬報社)発売中。