自民党「言論統制三人組」は本当に処分を受けたのか?
自民党「言論統制三人組」は本当に処分を受けたのか?
渡辺輝人 | 弁護士(京都弁護士会所属)
http://rpr.c.yimg.jp/im_siggjsfjjd2IxrFUvl9VbtINnA---x64-y64/yn/rpr/watanabeteruhito/profile-1406856195.jpeg 2015年7月3日 2時0分ことの発端は、安倍首相に近い自民党の若手がつくる「文化芸術懇話会」(代表=木原稔・党青年局長(当時))が6月25日に開いた、百田尚樹氏を講師に招いた勉強会で、百田氏が暴言をくり返すとともに、出席した議員らが憲法21条で保障された表現の自由(報道の自由)を抑圧する言論統制発言をしたことです(詳しくはこちら)。憲法尊重擁護義務を負う国会議員がこのような発言をするのは二重に憲法違反です。
「処分」の内容
http://rpr.c.yimg.jp/im_sigga5MAmgvv5KVjevpzoflzrw---x280-n1/amd/20150703-00047198-roupeiro-002-5-view.png 福岡の青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある、と豪語する井上貴博議員自民党の谷垣幹事長は、会の主催者だった木原稔党青年局長(45)を更迭して1年間の役職停止処分、言論統制発言をした大西英男、井上貴博、長尾敬の各議員(以下「言論統制三人組」といいます)は「厳重注意」としました。
自民党の党則、規律規約上の扱い
木原議員に対する役職停止措置は党規律規約上の処分と言えそうですが、一方の言論統制三人組が受けたとされる「処分」はいかなる意味を持つのでしょうか。
http://rpr.c.yimg.jp/im_sigg5t1KjzbSvTEcghKCQaagZg---x280-n1/amd/20150703-00047198-roupeiro-003-5-view.png 沖縄の特殊なメディア構造を作ったのは戦後保守の堕落、という長尾たかし議員
自民党は党内部を規律する「党則」「党規律規約」を公開しています。党則92条3項では、国会議員が「党の規律に反するとき」などと認めるときは、幹事長が党規律規約に基づき処分を行えます。つづいて自由民主党規律規約9条3項には、幹事長が行う処分として「党則の遵守の勧告」「戒告」「党の役職停止」「国会及び政府の役職の辞任勧告」の4つを定めています。つまり「厳重注意」という処分は存在しないのです。党規律規約14条には幹事長が「注意を促す」という措置がありますがこれは処分ではありません。察するに、言論統制三人組は、幹事長に呼び出されて絞られた(注意を促された)だけで、実は自民党の組織上の処分すら受けていない可能性があるのです。「注意」と「厳重注意」に違いがあるかも疑問です。意味のない装飾をして、あたかも厳重な処分がされたかのように世論をミスリードしているようにも見えます。
ところで、民間の労使関係でも、就業規則上の懲戒処分に至らないような問題行為について「注意処分」をすることはあります。しかし、そういう場合でも、始末書・報告書の類を提出させるのが普通でしょう。自民党は、今回、せめてそういう措置を取ったのでしょうか。
谷垣氏も当初は「主張のしかたには品位が必要だ」と述べており、発言内容そのものが重大な問題であることを認識しているのか疑問です。党執行部からも当初「青年局長の更迭は当然。世が世なら切腹ものだ。」という発言が出ていましたが、これは誰に対して「切腹」するのかと言えば、文脈からすれば、やはり迷惑をかけた自民党(安倍晋三総裁)に対してではないか、という疑念が生じます。
この体で、国民に対して謝罪できるわけもないのです。
二度目も「厳重注意」
http://rpr.c.yimg.jp/im_siggK3vAXHtFbT5mMncjzoI6yg---x280-n1/amd/20150703-00047198-roupeiro-001-5-view.png 何度でも言います!という雰囲気がある大西英男議員通常、刑事司法でも、再犯の場合に刑が重くなります。一般的に、共犯者の中では、実際に行為をした者、主導した者の責任が重くなります。言論統制三人組の発言を誘発したとも思えない木原議員が役職停止になる一方、憲法違反の発言を「注意」をはさんで二度もした人物を再度「注意」で済ませ、組織内で何の制裁もうけない自民党にはそういうセンスが欠落しているように思えます。
内輪に広がる波紋
一方、自民党内では逆方向の不満・批判が巻き起こっています。
首相に近いベテラン議員は「処分すると責任を認めたことになる。一気呵成(いっきかせい)に更迭するのは問題だ」と発言しました。木原氏の青年局長権限だけを1年間停止し、後任は任命しないことで「更迭」色を薄める案も飛び出しています。
さらに「足元の自民党幹事長室では先月30日、谷垣幹事長に対して「処分で若手が萎縮する」など安倍総理に近い議員らから疑問の声が上がりました。谷垣幹事長が反発を押し切って処分に踏み切ったことについて、安倍総理は周辺に「谷垣さんのグループも、死んだふりしてるけど、そうでもないんだな」とつぶやいています。」との報道も見られ、総裁である安倍晋三氏から「処分」について不満が出る始末で、処分をするようなポーズを取って国民世論をかわそうとした谷垣幹事長に後ろから鉄砲を撃つ状態になっています。
言論統制発言をくり返す理由
安倍首相はこの問題で国民に向かって一度も謝罪していません。「報道が事実なら大変遺憾だ。(勉強会は)党の正式会合ではない。有志の会合だ。発言がどのように報道されたかは確認する必要がある」「成り代わって勝手におわびできない」などと言い訳をするばかりです。誰も成り代われとは言っていませんよね。自由民主党の総裁(代表者)として所属議員がした言論統制発言の責任を取るべきなのです。身内で事実を確認できるはずなのに、発言内容ではなく、報道内容を確認する、と言っている点には、危うさすら感じます。
一方で、安倍首相は、同じ与党の公明党に対しては「わが党の議員のことでご迷惑を掛けて申し訳ない」と陳謝しています。安倍首相には「国会審議が乱れる」ということを連立パートナーに謝罪する頭しかないのです。
そして、上記のように、幹事長である谷垣氏が下した処分について不満を述べる始末です。