衆院憲法審査会と参院法務委員会で参考人質疑
衆院憲法審査会と参院法務委員会で参考人質疑
立命館大学の松宮孝明教授は、法案が「広く市民の内心を捜査と処罰の対象とし、市民生活の自由と安全が危機にさらされる戦後最悪の治安立法で、戦前の治安維持法よりたちが悪い。全刑法犯の80%を超える犯罪を対象とし、誰でも対象にできる」と批判しました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しんぶん赤旗 2017年6月2日
小林雅之東京大教授は教育の無償化について「現状では世論の支持が得られない恐れが強く、国民投票で否決されると実質的な無償化はさらに遠のく」と指摘。日本共産党の赤嶺政賢議員は「教育無償化は9条改憲の手段に使われている」と批判し、「教育の無償化実現に必要なことは、憲法を変えることではなく、教育予算を抜本的に増やし、学費の引き下げを行うことだ」と主張しました。
小山剛慶応大教授は環境権について、「すでに一定の法体系が成り立っており、憲法に書くのは後追いになることから、環境権を憲法に明文化する意義があるか議論がある。環境権の実効性は法律にどう書き込むかによるもので、憲法だけで片付くものではない」と述べました。
知る権利についてNPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は「情報公開法に明記することで解釈運用の指針になる」と指摘。憲法に明記することについては「何を保障するのか、何を達成・実現するのか議論することが重要だ」と語りました。
新しい人権について宍戸常寿東京大大学院教授は憲法13条を根拠に「憲法改正を待たなくても法律で新しい人権を実現したり、裁判所の解釈によって他の基本的人権と同じ憲法レベルで保障・実現したりすることもできる」とし、改憲を自己目的化することに否定的な考えを示しました。
「共謀罪」戦後最悪の治安立法
しんぶん赤旗 2017年6月2日
立命館大学の松宮孝明教授は、法案が「広く市民の内心を捜査と処罰の対象とし、市民生活の自由と安全が危機にさらされる戦後最悪の治安立法」だと陳述。「通信傍受法により、共謀はすぐさま盗聴対象となる可能性がある」と述べ、盗聴がはびこる危険性を指摘しました。
松宮氏は、「共謀罪」法案が「(戦前の)治安維持法よりたちが悪い。全刑法犯の80%を超える犯罪を対象とし、誰でも対象にできる」と批判。「法案に明確な対象範囲が書かれていない。『自由を保障する』といくら答弁しても、法律は言葉が命だ。乱用の懸念がある」と強調しました。
しんぶん赤旗 2017年6月2日
市民の自由と安全を危険にさらす戦後最悪の治安立法
今回の「テロ等準備罪」=「共謀罪」法案は、その立法理由とされる国際組織犯罪防止(TOC)条約の批准には不必要です。それにもかかわらず成立を強行すれば、何らの組織にも属していない一般市民も含め、広く市民の内心が捜査と処罰の対象となり、市民生活の自由と安全が危機にさらされる戦後最悪の治安立法となるだけでなく、実務にも混乱をもたらします。
まず「組織的犯罪集団」の定義ですが、「テロリズム集団」と「その他の組織的犯罪集団」とあるように、単なる例示であって限定機能はありません。TOC条約で組織的な犯罪集団の定義とは、「3人以上の者から成る組織された集団であって、一定の期間存在」するものであればよいので、3人で組織されたリーダーの存在する万引きグループでも当てはまります。他方で法案には、TOC条約にある「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため」という目的要件が欠落しています。
本法案では対象犯罪の選択も恣意(しい)的です。保安林での無断キノコ狩りは含まれて、特別公務員職権乱用罪やさまざまな商業賄賂の罪が除かれる理由はありません。この点で今回の法案が、マフィアなどの経済的組織犯罪を対象としたTOC条約を“文字通り墨守する”必要はないとの立場をとっていることは明らかです。
遂行を2人以上で計画した主体は、団体や組織ではなく自然人です。また法案の文言では、計画した人物が組織に属する者であることを要しません。組織的犯罪の計画をつくり組織に提案する人も対象となるからです。
「実行準備行為」は、「資金又は物品の手配、関係場所の下見」などの単なる例示であり、限定機能を有しません。外見的には中立的な行為でもよいことになります。この場合、共謀罪の成否は、どういうつもりで食事をしたかという内心に左右されるため、実質的な内心処罰になります。しかも捜査機関が「準備行為」とみなすものは無限にあるため、誰が検挙・処罰されるかは、法律でなくその運用者によって決まることになります。これは、近代法の求める法の支配ではなく、運用者による人の支配です。
凶器準備集合罪(2人以上の者が他人に害を加える目的で凶器を準備して集合し、また準備のあることを知って集合した場合に成立する罪)を例にとると、法務大臣と刑事局長は当時、暴力団等にしか適用しないという答弁をしていました。しかし、答弁や付帯決議は裁判所を拘束せず、暴力団以外の学生団体にも適用されました。法律に(制約を)明記しなければ乱用の危険があります。
現行通信傍受法により、共謀はすぐさま盗聴の対象となる可能性があります。しかし、日本語しかできない警察組織が用いる共謀罪は、日本語を話す人々のプライバシーを侵害しても、見知らぬ外国語で意思疎通する国際的組織は相手にできません。こんなもので「テロ対策」などと言ったら諸外国に笑われると思います。
なお、条約と国内法整備との関係については、日本政府は国内法制を整備せずに条約を締結するということを過去、多々やってきました。本当に何が必要かは、実際にTOC条約を締結し、運用してみて具体的に検討するべきです。
国連活動の一環である特別報告者切り捨てるのはいかがなものか
国際法上は、条約を批准するということは、それぞれの国の憲法および法手続きにしたがって条約を承認するということです。国際機関がどうこうするということは基本的にないのです。国内法を整備しないと批准できないということは、国際法上の要請というよりも、日本政府の政策または都合だと思います。法案に反対することで、TOCの批准が遅れている、そのことで日本が国際社会で非常に肩身の狭い思いをするというようなキャンペーンがはられているのは非常におかしいと思います。国際社会からのTOC条約に入りなさいという要請があるのですから、日本は条約を批准し、加入手続きをとればいいのです。その後に、対策としてなにが必要か十分に時間をとってできると思います。
5月18日のジョセフ・ケナタッチ国連特別報告者が安倍首相に送った書簡に対して、菅義偉官房長官は敏感に反応しました。ケナタッチ氏は「個人の資格で言っている」と言いました。国連特別報告者がどういう立場なのかを十分理解していないという点に懸念があります。もちろん特別報告者は個人であり、政府ではないのです。しかし、特別報告者は、有識者という資格で国連の人権理事会で任命されますから、単なる個人ではありません。言うことや仕事は、私的な見解ではありません。国連活動の一環として専門家の立場から寄与しています。それを「個人の資格でいうのはけしからん」と切り捨てるのはいかがなものかなと思います。
基本的には、国連のやりかたは、それぞれの国の違いを認めつつ、対話によって良い方向をめざそうということです。特別報告者もそういう趣旨の中の制度です。法案は、人権侵害について、まだ重大な疑義がのこっています。はっきりいえば欠陥法で、憲法に違反する法律です。憲法に違反する法律をつくっても違憲無効です。