生誕100周年、夭折の詩人・尹東柱の生涯を映画化「空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~」22日から公開

生誕100周年、夭折の詩人・尹東柱の生涯を映画化 「空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~」22日から公開

2017年7月10日06時46分 記者 : 坂本直子 印刷
キリスト教徒の詩人・尹東柱ユン・ドンジュ)の生涯を描いた「空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~」が7月22日(土)からシネマート新宿を皮切りに全国順次公開される。日本が朝鮮半島を植民地支配した時代、留学中の日本で治安維持法違反により逮捕され、27歳の若さで獄死した尹東柱。その生涯を、美しい詩とモノクロ映像で綴(つづ)った珠玉の作品だ。
今年で生誕100年を迎え、日本でも多くのファンを持つ尹東柱の生涯が映画化されるのは今回が初めて。韓国では昨年公開され、韓国映画評論家協会賞をはじめ、数々の映画賞に輝いた。監督は、尹東柱の詩をこよなく愛する名匠イ・ジュニク。詩人になることを夢見ながらも、かなえられない時代を駆け抜けた尹東柱の生涯に注目し、悲劇的な青春時代を通して、残された尹東柱の作品の誕生過程を探った。
映画では、人生の節目ごとに詩が書かれていく。生まれ育った故郷を離れ、いとこの宋夢奎(ソウ・モンギュ)と共にソウルの延禧専門学校(現・延世大学)に向かう列車の中では、2人の未来を予言するかのような詩「新しい道」が書かれる。また、淡い恋心を抱く女子学生ヨジンを送る夜道では「星を数える夜」、創氏改名を迫られた時には「懺悔録」、そして最も有名な「序詩」は、取調室での抗議の叫びに重ねられる。
死ぬ日まで空を仰ぎ
一点の恥辱(はじ)なきことを、
葉あいにそよぐ風にも
わたしは心痛んだ。
星をうたう心で
生きとし生けるものをいとおしまねば
そしてわたしに与えられた道を
歩みゆかねば。
今宵も星が風に吹き晒(さら)される。
(伊吹郷訳)
神様から与えられたいのちをよりよく生きるための決意を清らかにうたう「序詞」は、明らかに敬虔(けいけん)なクリスチャンの祈りの詩だ。日本に侵略され、名前も言語も奪われ、たった1つの夢である詩を書くことさえも許されず、その挙げ句、理不尽な取り調べを受け、「わけのわからない注射」を繰り返し打たれる。力尽きかける中でそれでも顔を上げ、力強く朗誦(ろうしょう)する尹東柱の姿は心に深く残る。
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日本植民地時代の犠牲者ともいえる尹東柱。ただ、同作品は、当時の日本政府の無謀な姿を明らかにしつつも、決して日本を非難した映画にはなっていない。映画の中で、尹東柱の詩を高く評価するのは、立教大学の日本人教授であり、第三国で詩集を出版するために援助してくれる。また、その打ち合わせの最中に警察がわが物顔で割り込んでくるのだが、教授の旧友の娘が「どちらさまですか」と静かに尋ねるシーンは、人の心に土足で入ることを当然としていた当時の軍国主義の中で、そうではない日本人がいたことを伝えて印象的だ。
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また、情熱的ないとこの夢奎の存在は、対照的に静かな信念を持つ尹東柱の心情や目指していたものを明確にする。そこには、「言論や思想の自由」が奪われた中で、信念を持って懸命に生きる若者の姿と同時に、尹東柱の青年らしい悩みや、自分の信念とは違った道を進もうとするいとこへの複雑な思いなどが表れている。悲劇的な内容でありながら、すがすがしささえ感じるのは、尹東柱の真摯(しんし)な生き方に青春の理想を見るからかもしれない。
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清冽(せいれつ)な青春を生き抜いた尹東柱を思うとき、「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」(ヨハネ12:24)という聖書の言葉が思い浮かぶ。キリスト教信仰や平和への切なる願いを込めて詩を作り、夢半ばで死なざるを得なかった尹東柱の生涯から多くのことを考えさせられるだろう。
「空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~」を含む特集上映「ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク」は、7月22日(土)〜シネマート新宿、7月29(土)〜シネマート心斎橋ほか、順次、全国公開予定