韓国の徴用工最高裁判決について(なんでやねん五郎)

韓国の徴用工最高裁判決について

昨日、韓国の最高裁で「元徴用工による日本企業への損害賠償請求訴訟」の判決がありました

この裁判の構図は、元徴用工であった…というか、無理矢理に徴用工にされた(個)人が私企業たる新日鐵住金を訴えたものなので

「個人が私企業を訴えた」という、どこまでいっても「私人対私人」の訴訟です

(言うときますけど、韓国政府や日本政府はこの訴訟の当事者ではないですよ)

そして、この訴訟では、まず、徴用工にされて昔の新日鉄で働かされた人が、
新日鉄を承継した新日鐵住金に対して損害賠償請求ができるのか…
という当事者適格段階の問題があり、それが認められたとして、今度は
徴用工にされた人に現在でも新日鐵住金に対する損害賠償請求権が存在するのか
という請求権の中身の問題がありました

そして、前者は当然認められ(∵現在の新日鐵住金は昔の新日鉄を承継する会社なので)

後者はどないなのか…と言えば、韓国の最高裁はその存在を認め

元徴用工の請求(=訴え)を認めたのでした


この裁判の判決に対して、日本ではまぁ、政府与党から始まって野党もメディアも(あるいは少なくない市民も)巻き込んで
まるで「オールジャパン」で「そんな判決はおかしいやろ」の大合唱であります

そんな様子を目の当たりにして、わたくし、何でやねん五郎…は
その生来の「あまのじゃく精神」が沸々と湧き上がって…

ホンマに日本政府(やメディア)の言い分が間違ってるのか、検討してみたいと思います

…と言いつつ、ぼくも前に、この問題については
一度検討してどこかのブログに書いた記憶があるんだけど
その記事を見つけられない

ぼくが解説するより百万倍いい…ので、以下のブログ記事を読んでいただきたいと思います↓

朝日新聞の訂正記事と吉田清治証言 当時の日本政府の対応

上記の記事には「個人の請求権と国家間の条約あるいは宣言との関係」に関する、「日本の国会」でのやりとりが出てきてまして

それはまず、「日本ではシベリア抑留者のソ連に対する個人の請求権があるのか」…

という話から始まったのであります↓
1991年3月26日 参議院内閣委員会 シベリア抑留者に対する質疑

翫正敏議員

・・・・条約上、国が放棄をしても個々人がソ連政府に対して請求する権利はある

こういうふうに考えられますが、・・・・本人または遺族の人が個々に賃金を請求する権利はある、こういうことでいいですか。


高島有終外務大臣官房審議官

私ども繰り返し申し上げております点は、日ソ共同宣言第六項におきます請求権の放棄という点は、国家自身の請求権及び
国家が自動的に持っておると考えられております外交保護権の放棄ということ
でございます。

したがいまして、ご指摘のように
我が国国民個人からソ連またはその国民に対する請求権までも放棄したものではないというふうに考えております

これって、なんだか、「日韓基本条約と個人の請求権の関係」とよく似た話ですよね

だから、こういう流れになるのも当然と言えば当然です…↓
1991年8月27日 参議院予算委員会での答弁

柳井俊二外務省条約局長

・・・・先生ご承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は

最終かつ完全に解決したわけでございます。

その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりました
それぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、
これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということ
でございます。

したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを

国内法的な意味で消滅させたというものではございません


日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、

こういう意味でございます。
(この答弁は「外務省条約局長」としての答弁なので、
 日本政府の公式見解とおんなじ意味
をもちますよ)


このやりとりを見ればわかるとおり、さすがに日本政府といえども

シベリア抑留者の個人請求権だけ認めて韓国の個人請求権だけ認めない」という説明のつかない話にはできず

「こちらを認めればあちらを認めざるを得ない」という当然の話に落ち着いてます

そして、その当然の帰結に基づいて韓国の元徴用工の人が

自分を働かせた新日鐵住金を相手に損害賠償請求して、それが認められた…

というのが、今回の韓国最高裁判決だったんですが、

それがなんで「あり得ない」んですか、アベくん?

(アンタのコメントが「あり得ない」んやんか…)


日本政府関係者も与党もメディアもTVも

こういう「当然の話」が国会であった…という解説一切してくれず

それどころか、こういう「当然の話」をなかったことにして

国際法に照らせばあり得ない判断だ」(アベ首相)…とか

「日韓請求権協定に明らかに違反し、
 国際社会の常識では考えられないことが起きている」(河野外相)…とか

「(韓国は)国家の体をなしてない」(中曽根弘文外務大臣)…とか

「怒りを通り越して呆れる」(新藤義孝総務大臣)…とか

「日韓の「解決済み」ひっくり返す」(朝日新聞)…とか

「日韓関係は「無法」状態に 請求権協定を踏みにじった」(日経ビジネス)…とか

立憲民主の代表までが「判決は大変、残念であり、遺憾に思う」…と言うてはって・・まぁ、「オールジャパン」でようやるわ、これ…


そもそも、韓国の最高裁では2012年に

日韓条約で個人請求権は消滅してない」との判断を下していたので

(↑ここ、日本の国会でのやりとりとおんなじ結論ですよ


今回の判決は当然に予測できたものであり、(親日売国右翼の)韓国の前政権だって「元徴用工が起こした裁判」の最高裁判決の「先延ばし」を画策してただけ…で

その内容(=判決)まではどないもならん…と思ってくらいなので
今回の判決に「驚いたフリ」をする日本政府や日本のメディアは
「わざとらしい」としか思えません


そもそも、個人がもつ請求権(=権利)を国がその個人の承諾なく消滅させる…なんてことは、
(時効などの国内法の規定を除いては)できないこと…だというのは
法の素人でもわかる理屈であり、それは「国際法の常識」
でもあるんだから

河野外務大臣にはもうちょっと法を…というか常識を身につけてほしいと思います

さらに、河野大臣は「日本は毅然とした対応を…」ではなくて

なんと、「韓国政府に対して毅然とした対応を要求する…」という、

なんだかよくわからないコトをゆうてはりまして、

こんな人が外務大臣やってて大丈夫なんか、この国…と

ぼくは非常に心配になる今日この頃なのでありました…


※日本ではどうも、「行政権全能主義」がまかり通っていて

なんだか「三権分立」がないような話になってるんですけど

政府というのは行政権を担当する部署に過ぎず、「三権を束ねる機関」ではありません

(…なんてことは常識ですがな…)


だから、韓国政府の見解に三権の一つである最高裁(=司法権)が従う義務はなく、それどころか、司法権というのは
行政権から独立して「法に基づいて物事を判断する機関」であって
それが司法権の存在理由と言ってもいいのでありまして
韓国政府の見解と異なる判断を下すこともあるのが当然です

(行政権や立法権の行為を事後的に是正するのが司法権の役割ですので…)
だから、今回の判決に対して「過去の韓国政府の態度と矛盾してる!」とツッコむのは筋違いでありまして、もし仮にツッコむことがあるとすれば、
それは「韓国政府の過去の見解は誤りだ!」というものであるでしょうし、
「判決を批判する日本政府の態度はあり得ない!」というものでありましょう