憲法尊重擁護義務 はどのようにして果たされるべきか(五十嵐仁氏)
憲法尊重擁護義務 はどのようにして果たされるべきか(五十嵐仁氏)
この臨時国会で改憲を発議させようという安倍首相の策動は、常識的・客観的にはとても無理な話なのですが、それでも、臨時国会でまず改憲案を憲法審査会に提示し、通常国会への継続も視野に入れて時間をかけたという実績を作り、チャンスがあれば発議に持ち込むというのが、首相の腹積もりだと五十嵐仁氏は述べています。
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憲法を尊重し擁護する義務はどのようにして果たされるべきか
五十嵐仁の転成仁語 2018年11月3日
72年前の今日、日本国憲法は公布されました。それが施行されたのは、半年後の1947年5月3日のことになります。
安倍首相は今年の通常国会開会に当たっての施政方針演説で、「50年、100年先の未来を見据えた国創りを行う。国の形、理想の姿を語るのは憲法です」と述べて、改憲を呼びかけました。70年以上の生命力を発揮した現行憲法は、まさに自由と民主主義が保障された平和国家の建設という「50年、100年先の未来を見据えた国創りを行う」という「国の形、理想の姿」を示していたのではないでしょうか。
それを変えるようにと、国民にたきつけているのが安倍首相です。不都合があれば変えなければならないのは当然です。
不都合があるから提起したのではなく、改憲議論を深めるために提起したというのですから、自らの提案が改憲そのものを自己目的化したものであったということを、はっきりと告白した答弁にほかなりません。9条に自衛隊の存在を書き込んでも何も変わらないと誤魔化したり、自分のは「条文イメージ」であって自民党案とは異なると言ってみたり、各党に改憲案の提案を求めたりしていることも、端的に「ここが不都合だ」というわけではないことの証拠です。
不都合などがないから、国民は改憲を求めていません。毎日、朝日、読売、共同、NHK各社の世論調査だけでなく、政府寄りとされている産経の調査でも臨時国会に自民党改憲案を提出することに賛成が42.9%、反対が48.3%と、反対の方が多くなっています。
安倍首相は「憲法改正や改憲案の本国会提出に賛成する人が一定程度認められる現状で、議論することまでを否定するべきではなく」述べています。「賛成する人が一定程度認められる」ことは事実ですが、それ以上に反対する人が多いのですから多数意見に従うのが民主主義というものでしょう。
確かに、改憲について議論することまでは「禁止」されているわけではありませんが、それを総理大臣が、自衛隊という中立であるべき実力組織や国会という立法府を前に呼びかけることが、憲法の趣旨からして許されるのかということが問われているのです。憲法99条に「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と書かれていることは、いくら安倍首相でも知らないはずがありません。
最近はやりの言い方で言えば、二重三重に重なっている「檻」に入れられている「ライオン」が安倍首相なのです。そのような立場にある者は改憲議論を呼びかけることについても抑制的であるべきだというのが、自民党を含めたこれまでの首相の共通理解でした。
憲法は最高法規ですからその扱いは慎重でなければならず、三権分立の趣旨からして行政府の長が立法府での議論のあり方に関与・介入するべきではないということも、自民党を含めた国会議員の共通理解であり常識でした。しかし、そのよう共通理解を持たず、常識も通用しないのが安倍首相という人なのです。
臨時国会は難題山積で期間も短く改憲など提起する余裕があるのか、しかも、与党の公明党まで腰が引けているから発議は相当困難なのではではないか、という見方は常識的なものです。しかし、このような常識も安倍首相には通用しません。
安倍首相は説明だけでもさせて欲しいとトーンダウンしたと言われていますが、維新の会などの「援軍」を利用し、国民投票法で野党を分断して国民民主党を引き込み、何とか足掛かりを見出したいと考えているにちがいありません。