福島原発以上に危険性のある高速増殖炉『もんじゅ』で今起きていること(2)

続きです
高速増殖炉は何が問題なのか?
さて、これまで高速増殖炉は安全性に疑問があるとか言ってきましたが、ではどのようなところが危険なのでしょうか。
高速増殖炉の危険な特徴」*3 に非常によくまとまっています。以下のことが問題と言われています。
・核暴走が起こりやすい
核分裂の速度が速いので、一瞬のうちに制御が不可能になってしまいます。また核燃料の配置の密度も高いため、少しの変形で暴走しやすいです。また中性子の速度も速いため、制御棒によっての制御の効きも遅いです。
・冷却材にナトリウム
ずっと言っているように、冷却材にナトリウムを使っています。ナトリウムは非常に扱いが難しい危険な物質で、空気に触れたら燃え、水に触れたら爆発します。実際に『もんじゅ』のナトリウム漏れ事故はナトリウムの扱いに失敗し起こってしまった事故です。
プルトニウム自体が猛毒で、それを増やしている
プルトニウムは、1グラムで数百万人を殺すことができる猛毒と言われています。高速増殖炉ではそれを増やしているのです。
(3/30追記)プルトニウム自体には毒性がないとも言われているようです。ただし、そもそも放射性物質なので、危険な物質ではあるということでした。
・建物の構造に問題がある
これもナトリウムを使うことが理由で、建物の構造が非常にもろくなってしまっています。特に地震には非常に弱いです。さらに『もんじゅ』の場合は、活断層の上に建物が乗っています。
というわけで高速増殖炉は「プルトニウム核分裂させ、エネルギーを発生させ発電したうえで、さらにプルトニウムを増殖する」という夢の仕組みではあるのですが、安全性にかなりの問題があります。これまでだったらこれを聞いても、あまりぴんとこなかったと思いますが、東日本大震災が起きて福島原発で事故が起こっていることを見れば、上のような問題がどれほどの危険を及ぼすか分かると思います。もし事故が起こったら、ひどい被害が出るのです。
高速増殖炉もんじゅ』で現在起こっていること
ここまで、長く原子力発電の説明をしていましたが、では高速増殖炉もんじゅ』では今何が起こっているのでしょうか。僕自身はこの件について、「夢の高速増殖炉もんじゅ”が福島第一原発よりヤバい状態になりそうで責任者が自殺してたんだけど知ってた?」*4 をきっかけにして知り、本当はどのようなことが起こっているのか調べ始めました。
簡単に起こっていることを説明すると、「原子炉に燃料交換装置が落下し、燃料棒の交換方法が絶たれたため、運転も廃炉もできないようになっている」ということです。順をおって説明します。
*4:「夢の高速増殖炉もんじゅ”が福島第一原発よりヤバい状態になりそうで責任者が自殺してたんだけど知ってた?」2011年03月26日『2のまとめR』
http://2r.ldblog.jp/archives/4367597.html
・原子炉に燃料交換装置が落下した
2010年8月に『もんじゅ』の燃料交換装置の一部である中継装置が原子炉内に落下しました。その直後は引き抜けば大丈夫と言っていたのですが、これまで20回以上も試してみても引き抜けない状態が続いているようです。なぜ引き抜けないかなのですが、まず原子炉の構造は以下のようになっています。
http://px1img.getnews.jp/img/archives/monju04.jpg
もんじゅ、上ぶた一部と一体回収 落下装置、40%試験「11年度可能」」2010年11月17日『福井新聞』より引用
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/nuclearpowermonjuresume/24812.html
高速増殖炉の場合、燃料棒の周りはナトリウムによって満たされているため、この炉内中継装置に燃料棒を引っ掛けて(?)上げ下げすることで燃料棒を交換します。この中継装置は二本の棒をつなげた構造になっていますが、この接合部の留め金が落下時に変形して取り出せなくなっているのではないかと言われています。
・燃料棒の交換ができない
中継装置を上げ下げすることができないということは、燃料棒の交換を行うための手段がなくなっているということですね。そのため現在は実質燃料棒の交換を行うことは不可能になっています。
・運転も廃炉もできない状態になっている
燃料棒の交換をできないということは、つまり新しい燃料に取り替えることも、すべての燃料を取り除いて廃炉にすることもできないということです。そのため現在では、高速増殖炉もんじゅ』は制御棒をなんとか炉内に入れて核反応を制御しつつ、発電は全くしないで年間500億の費用を使う“お荷物”のまま、稼動しています。
高速増殖炉もんじゅ』は今後どうなるのか
(4/1追記)今後どうなるのかという部分はこれまで集めた情報からどうなりそうなのかという部分を僕の推測から書いてしまっています。本当にどうなるのかということに関してはこの記事だけで決めてしまわないようにしてください。他の記事も参考にしながら実際にどうなりそうなのかを自身で考えることが重要だと思います。素人意見ということを頭に置いて、実際には公式見解の発表を待つのがいいと思います。
さて、このような問題の起こっている『もんじゅ』ですが、今後どうなっていくのでしょうか。
実際は今回の事故で直ちに甚大な被害が出るというものではありません。なのでとにかくパニックにはならないでください。ただし、以下のようなリスクをはらんでいると言っていいでしょう。
・中継装置の取り外しに失敗し、事故が起こる可能性がある
もんじゅ』では事故が起こってから、何度もこの中継装置の取り外しを試みていますが、今まで全く成功していません。詳しくは知りませんが、現在はいろいろなやり方を試そうとしているところみたいです。ただし、この作業は非常に難しいらしく、もしミスをしてナトリウム火災や原子炉の暴走が起こってしまったとき、今の福島原発が比べものにならないくらい甚大な被害が出る可能性があります。
また、もし取り外しができないという状態になってしまったとき、プルトニウムの反応が完全に終わるまで維持し続けることが必要になります。これは大体50年以上かかるらしく、単純計算で500億×50=2.5兆円以上のお金がかかってしまうということです。しかも発電量は0です。
・北陸での地震で事故が起こる可能性がある
もんじゅ』は活断層の真上に建設されているため、地震が起きた時も被害が出る可能性があります。
もし事故が起こってしまった場合は、被害範囲は半径300kmだとか日本全体だとかいろいろ言われていますが、公式の発表は出されていないようなので、まだ何もわからない状態なのでしょう。
最後に
ここまで原子力発電所の簡単な説明と高速増殖炉の問題点、『もんじゅ』で起こっていることを説明しました。最後に今回調べたことから僕が思っていることを3点述べて終わろうと思います。
福島原発や『もんじゅ』で実際に作業している人たちを応援したいということ
傍目からみてもここまで危険な状態なのであれば、実際にその場で作業している人たちはかなりの恐怖の中作業をしているのではないでしょうか。正直僕には原発に関して何もすることはできませんが、実際にその場で作業している人たちに感謝し、応援だけはし続けたいと思っています。
高速増殖炉だけは日本からも撤退してほしいということ
実際上に書いたような問題があり、これまでも何回か事故を起こしてほとんど使えていないにもかかわらず、原発推進派の方達はまだ高速増殖炉もんじゅ』を動かそうとしています。世界中で見ても、ほとんどのところが計画段階で高速増殖炉を諦めているし、フランスからも撤退されました。確かにメリットだけ見ると、動かしたい気持ちはわかりますが、それに対するリスクが高すぎます。釣り合いが全く取れていないと考えられます。
僕自身は原子力発電所全てを今すぐなくしたほうがいいとまでは言いませんが、『もんじゅ』だけは、もし中継装置の取り外しが成功した場合、早急に停止してほしいと思っています。以前も反対していたようですが、福井県としても今回は強く動いてもいいのではないかと思います。
原子力以外の道も少しは考えてもいいのではないかということ
今回、原発について調べていたところ、原子力発電所反対の意見に対し、「資源の少ない日本では原子力に頼らざるを得ない」という意見が目立ちました。本当にそうなのかという検証を行っているところはあまりなかったような気がします。
では本当に日本では原子力発電所がないとどうにもならないのでしょうか? 確かに今すぐに全部停止するということは、不便であるということや経済的にダメージをうけるなどのせいで無理かもしれません。しかし、調べてみると、火力や水力だけでも現状の電気量ならまかなえるとか、水力といっても日本中にある川に小さい発電所を作るというやり方もあるのではないかとか、代替のためのやり方を提案している人たちもいました。
なので今回の福島原発での事故から学び、単に原子力がないとだめだと決め付けるのではなく、リスクが高い原子力発電所に変わる何かを少しずつでもいいので考えるということはしても良いのではないでしょうか。
執筆: この記事はシバさんのブログ『Dive into the Tech World!』からご寄稿いただきました。