守田敏也さん講演録(4)シーベルトという単位に潜む誤りと危険

シーベルトという単位に潜む誤りと危険

《測定所にやっていってほしいこと、その1。
〜低線量・内部被曝の危険を伝える場に〜》
続き
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一番大きなポイントになるのは、ベクレルBqとシーベルトSvの換算式のまやかし性です。というか、「シーベルト」と言う単位に潜む誤りをもっと語っていかなければいけないと思うのです。
 
シーベルトというのはみなさんご存知のように、放射線を浴びた場合に人間にどれくらいのダメージがあるのかを表した数値で、放射線の被曝管理に使われている値ですが、もともとは「ジュール」という、ある一定の水の温度をどれだけあげることができるのかという数値を基礎にして成り立っているものです。
 
ではどれぐらいのものが被曝の許容基準になっているのかというと、1ミリシーベルトmSv/年間が多くの国で採用されています。これ以上は一般の民衆には浴びせてはならないとしようという国際的合意ができており、被曝をめぐる一つの攻防ラインであるとも言えます。
 
もちろん1ミリシーベルトだって安全値ではない。どれほど小さな値であっても被曝にはリスクがあるという観点もまた国際的な合意になっています。その意味では1ミリでも浴びない方がいいのですが、一つの攻防線として最低、この基準は国に守らせようと、多くの国で考えられているわけです。
 
しかしこのシーベルトによる被曝管理は、基本的には外部被曝に対してのみ有効なのです。身体の外から飛んでくる、主にγ線による放射線被曝の人体への影響を数値化するときにのみ、シーベルトは有効性を持ちます。
先ほども述べたように、基本的に熱量として1グラムの水の温度をどのくらい上げられるか、その熱量に換算した力が人間に加わっていると考えて計測するわけですが、内部被曝はこの外からのγ線の被曝を中心とした被曝の計量の仕方では危険性を計量できないのです
これは非常に重要な点です。今日は公言してしまいますが、ECRR (ヨーロッパ放射線リスク委員会)の計算式も、僕は間違っていると思います。なぜかというと内部被曝によって人体が受けるダメージは、線量が同じでも、放射線を受ける場所によってぜんぜん違う結果をもたらすからです。身体の中のどこに放射性物質が入って、どこの器官がどのように被曝で損傷したのかによってぜんぜん結果が違ってくる。
ぜんぜん違うというのは、私たち人間が手にしている医療が、どこの部位だったら手術ができるとかできないとか、そういうことまでをも含みます。被曝による現実的なリスクが場所によって大きく変わってくるわけです。
ところがベクレルとシーベルトの換算式というものがあって、何ベクレルだと何シーベルトに値するという具合に、数値の置き換えが可能だとされているのです。ICRP(国際放射線防護委員会)が作っている計算式ですが、これで計算するとシーベルトでの値が非常に小さく出てきてしまいます。
 
つまり1キログラム当たり10万ベクレルぐらいのものを食べないと1ミリシーベルトなどになることなどありえません。事故のあと1年間、私たちの国は1キログラムあたり500ベクレルまで政府によって許容されてしまったわけですが、この場合でも、500ベクレルを食べても0.0065ミリシーベルトにしかならないのだとされてしまう。そのために多くの汚染された食材が、「危険性は非常に少ないので食べての大丈夫」ということにされてしまったのです。

僕も多少の関わりがある生協で、一所懸命に食材の放射線値を測ってくれているところがあるのですけれども、ある日この生協の発表を見てみたら、そこにこの換算式を載せてしまっているのですね。それで計算したらますます「1キログラムあたり5ベクレルとか10ベクレルのものなど、心配して食べないようにする必要などない」ということにされてしまうわけです。
そうではなくてまずその計算式自身が誤りであること、そのように内部被曝は測ることはできないのだということを語っていって欲しい。その上で、やはり内部被曝はできるだけ減らすのが理想だということを強調して欲しいのです。
 
東大のアイソトープ研究所の所長で、長年にわたってがんと格闘してきた児玉龍彦さんは、膀胱がんの場合、膀胱における10ベクレルぐらいの被曝からも影響が出た例があると語っています。そのぐらいのレベルでもう影響が出てきている。そうした実例をたくさん積み上げて、積極的に低線量内部被曝の危険性を主張していくことが、僕は非常に大切だと思うのですね。
 
「関西医療研究会」の高松先生や、山本先生、入江先生たちが出している内部被曝に関する本があります。『低線量・内部被曝の危険性 ーその医学的根拠ー』というタイトルで、耕文社から出ていますが、僕は素晴らしい本だと思っています。この中でもECRRの考え方に対しての疑問符が出されていましたが、それらの内容を積極的に語っていただきたいなと思います。
 
同時に今、入江先生たちが本当に熱を込めて、福島の子どもたちに甲状腺がんアウトブレイクしていることを語ってくださっています。
「ものすごく大量の放射線を浴びないと病気にならないなどと政府や原子力村が語っていることは真っ赤な嘘だ」という主張につながる提言です。この測定所にはせっかく入江先生が関わってくださっているのですから、この貴重な提言をぜひとも積極的に活用して欲しいです。
 
低線量の被曝の重なりの中で、実際にこれだけの甲状腺がんが発症しているのだということを説得力を持って語り、だから少しの被曝でも避けるようにすることが大事なのだと、繰り返し、繰り返し、多くの方に伝えていただきたい。そのことを測定に来た方に伝えていく場に、測定所を飛躍させていって欲しいと僕は思います。
本当に全国にたくさんの市民測定所がありますけれども、中にはICRP的な計算式で危険性を換算しているところもあります。この点は国際的な論争にもなっているところですから、手に負えないと考えているところもあると思います。だけれども奈良の測定所は「関西医療問題研究会」と親しくしてきているのですから、説得する材料もたくさんあると思うので、ぜひそこに踏み込んで下さい。