守田敏也さん講演録(8) ベラルーシの社会はどうなっているのか?

守田敏也さん講演録 13〜 ベラルーシの社会はどうなっているのか

ベラルーシという国の姿】
こういう話を聞くと、僕も周りの方たちも、ベラルーシという国をどうとらえたらいいのか分からなくなってきました。
一方で小児白血病は明らかに多いのです。しかしそれが原発のせいだとは言わない。言わないけれどもかなりの国家予算を投じて、なおかつ外国からの大きな援助があって、少なくとも一緒に行った小児科のドクターたちが、「これはかなりしっかりやっているなあ」と思うような医療体制がある。
しかし世の中にはドラッグやアルコールが蔓延していて若者が中毒や依存症になりやすい。わずか数日の訪問ですから、社会の一部を見たに過ぎないとは思うのですが、しかしそれでも混沌としたベラルーシの姿を垣間見たのではないかと思いました。
ミンスクの町は確かにとてもきれいです。しかしやはり非常に統制されているのですね。この統制された美しさの背後に、さまざまな中毒などがありながら、それが表に見えないようにされているのかと思うと、何とも言えないものがありました
ちなみにベラルーシは、西欧諸国から独裁国家だと言われている国です。アメリカのブッシュジュニア元大統領など、一時期、「独裁国家ベラルーシを打倒せよ」などと言っていたそうです。
ベラルーシの社会はどうなっているのか。僕が感じたのは、社会主義の崩壊過程でprivatization=私有化がどんどん進んでいる激しい過程の中にあるということです。
どういうことが起こっているのかというと、今まで社会主義体制のもとで公共財産であったものの奪い合い、もぎ取り合戦が激しく行われているのです。誰がそれを奪っているのかというと、旧社会の政府高官、もともと公共財産を官僚的特権で牛耳っていた人たちです。
ロシアも同じと言うか、典型的なことが起こっていますよね。例えば今、大統領を担っているプーチンは元はソ連秘密警察のKGB(カーゲーべー)幹部でした。革命で倒されたはずの、旧社会の一番悪い部分にいた人物です。それが今も実権を握っています。
ベラルーシで、これは象徴的だなと思ったのは、ミンスクで泊まった宿泊施設の周りの住宅街でした。ちょうど高層マンションが次々と建設されている過程だったのですが、そのビルのオーナーは誰なのかというと、なんとモスクワ市長夫人なのだそうです。ミンスクの郊外に建っている高層マンションの所有者がです。このことにも、ロシア資本がどんどんベラルーシに投下されていて、もともとの公用地の上に、新しく作られている建造物が私物化されている現実が分かります。
そういう状況の中でベラルーシでは経済格差が開き、貧困が蔓延しているわけです。社会に対する絶望感の中で、若者の中にドラック中毒やアルコール依存症が蔓延してしまっている。そういう大変な状況にあることが見えてきました。
ベラルーシはロシアによるクリミア併合に対しても、すぐに支持声明を出しています。完全にロシアに牛耳られてしまっているのだと思うのですね。もちろん、ベラルーシ政府高官自身も積極的にそのように動いているのだと思います。例えば、自動車などはロシアのものしか買えないそうです。正確にいうと、ベンツやフォルクスワーゲンなど、ドイツ製の車も買えないわけではないのですが、購買に税金が100%もついてしまう。つまり、200万円の車を買おうとしたら400万円も支払わせられるのです。そうやって明らかにヨーロッパの製品を排除して、ロシアのものを買わせるように仕向けられています。そのような社会のありかたがあって、その中で国立の病院の医師たちが、自由にものを言おうとしないのは、それはある意味、当然だろうなという気がしました。
ロシア自身は、核兵器をずっと保有している国だし、過去にたくさんの核実験もしてきました。チェルノブイリ原発事故にももともとの責任がある当然、放射能の害についていろいろと言われたくないわけです。それで放射能の問題に強い圧力をかけてきたのだと思います。
実際には、先ほども述べたように、白血病の子どもたちが多いのです。だからお金をかけて治療はしている。しているのだけれども、それを放射能のせいだとは言わないという状況がある。その根拠が見えてきました