北海道5区補欠選挙の結果は何を示しているか(五十嵐仁氏)
北海道5区補欠選挙の結果は何を示しているか(五十嵐仁氏)
北海道5区の衆院補選では本当にもったいない(惜しくて残念な)結果になりました。
池田候補は無党派層の73%から支持を受けたにもかかわらず1万2300票差で惜敗しました。全くの新人でありながら、自衛隊員が多く保守支持層の農村部を有して常勝を続けていた自民党候補に良くあれだけ肉薄できました。
公明党は元より、自民党による企業・団体などのいわゆる組織(票)への猛烈な締め付けの中でしたが、もしも投票率が実際の57.6%から63%以上に上昇すれば勝っていました。あれだけ熱くなったはずの5区で、投票率が前回よりも0.8ポイント下がったというあたりに本当の問題があるのかも知れません。
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五十嵐仁の転成仁語 2016年4月25日
もっと早く、もっと全面的な野党共闘が実現していたなら、勝利することができたのではないでしょうか。その威力と可能性を示すに十分な結果であったと思います。
注目の選挙結果は次のようになっています。両者の差は1万2355票で、和田候補が当選しました。
和田義明 135,842 自新=[公][こ]
池田真紀 123,517 無新=[民][共][社][生]
この選挙区では、小選挙になってから自民党は一度しか負けたことがなく、町村さんの議席を引き継ぐべく立候補した娘婿による「弔い選挙」です。当初は、ダブルスコアで自民有利と見られ、楽勝だと言われていました。
それなのに、野党候補が横一線にまで追い上げ、接戦になりました。池田真紀候補による「巻き返し」の結果です。
民進党の枝野幸男幹事長は「幅広い市民の皆さんに支援をいただき、接戦に持ち込めたことは次に向けて大きな一歩になった」と述べ、共産党の小池晃書記局長も「自公を追い詰めた。野党共闘の力が大きく発揮された」と語ったように、このような「巻き返し」が可能になったのは野党共闘の候補として足並みが揃ったからです。当選しなかったのは残念ですが、ここまで善戦・健闘できたのは野党の選挙共闘と市民選挙の力があったからであり、そのことを高く評価したいと思います。
この結果について、新聞報道では「一定の効果」だと評価されています。しかし、効果は「一定」ではなく、絶大なものであったと言うべきでしょう。
「夏の参院選に暗雲」とか「野党共闘の出足をくじいた」などと報じた新聞もありました。しかし、元々自民党が持っていた議席で勝って当然の選挙ですから、それを野党が奪取できなかったと言って、どうして「暗雲」が漂ったり、出足がくじかれたりするのでしょうか。
「戦術練り直し」などという見出しもありました。しかし、ここまで追い上げることができた戦術を「練り直す」必要はないでしょう。もっと、効果的に全面的に駆使できるようにするという形での「練り直し」は必要でしょうけど。
この選挙結果から分かることの第1は、自衛隊関係者のいない都市型選挙区であれば、野党候補者は勝利できるということが示されたことです。他の都市型選挙区でも野党共闘が実現すれば勝利できるということになります。
北海道5区は札幌市厚別区、江別市、北広島市、石狩市、千歳市、恵庭市の都市部と二つの町村によって構成されています。このうち、千歳・恵庭の二つの市と町村以外では池田候補の得票が上回りました。しかし、和田候補が千歳市で1万1152票、恵庭市で6385票、合計1万7537票多く得票し、町村でも1767票多かったために、池田候補を振り切ることができました。
共同通信の調査では、自民支持層の87・2%、公明支持層の89.0%が和田候補に、民進支持層の95.5%、共産支持層の97.9%が池田候補に投票したそうです。一番歩留まりが悪かったのが自民支持層で、良かったのは共産支持層でした。
つまり、自党の候補者から逃げ出した割合が最も多かったのは自民党支持者で、共産党と共闘したら逃げ出すと言われていた民進党の支持者はほとんどそうしませんでした。しかも、無党派層では73.0%が池田候補に投票したように、無党派層に浸透するうえで野党共闘の威力は極めて大きかったということが実証されました。
第3は、このような野党共闘が新たな段階に達したということです。選挙戦最終盤の23日に、民進党の前原誠司元外相や細野豪志元環境相らが共産党の小池晃副委員長や穀田恵二国対委員長、生活の山本太郎代表らと札幌市で街頭演説を行うという「事件」がありました。
民進党の「保守派」も野党共闘に踏み切った象徴的な姿であり、これは今後の衆院での共闘の可能性をも生み出す大きな出来事でした。しかし、残念ながら野党4党トップそろい踏みの演説は最後まで実現しませんでした。
このような政治的「事件」がもっと早く起きていれば、トップの揃い踏みのような形でさらに大きな「事件」を起こしていれば、選挙情勢は変わっていたかもしれません。選挙共闘が「一定の効果」にとどまったとすれば、このような限界があったからです。今後、「練り直し」が必要であるとすれば、このような限界を突破し、さらに全面的な共闘へと発展させていくという点でしょう。
現在、参院選に向けて32ある1人区での野党候補の一本化は18に達し、20を超えるのは確実になっています。民進党の枝野幹事長は「候補を一本化する戦略に自信を持った」とし、共産党の小池書記局長も「参院選に向けた足がかりはしっかり築けた」と強調しています。
東京新聞 2016年4月25日
夏の参院選を控え、安倍政権はほっと胸をなで下ろしているに違いない。二選挙区で投開票が行われた衆院補選。町村信孝前衆院議長の死去に伴う北海道5区は、自民党公認の和田義明氏(44)が野党統一候補の池田真紀氏(43)を破り、補選全敗を回避した。
二〇一四年の第三次安倍内閣発足後初の国政選挙である。安全保障関連法や経済・子育て政策などが争点だったが、政権が積極的に信任されたというよりも、町村氏の地盤を娘婿である和田氏が守り抜いたといった方がいいだろう。
野党四党が候補者を統一して推薦し合う共闘の形は、参院選でも一つのモデルとなるはずだ。
課題も浮き彫りになった。
政権批判を糾合することは一強多弱の政治状況を転換し、政治の誤りを正すには当然だが、有権者に浸透しなければ意味がない。
現政権の問題点を粘り強く訴えると同時に、安倍政治に代わるビジョンを示すことも重要だ。四党間に理念・政策の違いがあるのは当然だが、共通政策づくりに向けた協議も急ぐべきである。