閣議決定された新天皇即位のお言葉(「憲法を守り」が「憲法にのっとり」にされる) 沖縄の二紙が疑問を

閣議決定された新天皇即位のお言葉に 沖縄の二紙が疑問を

 新天皇陛下は「即位後朝見の儀」で「憲法にのっとり、象徴としての責務を果たす」と述べられました。このお言葉は臨時閣議で決定されたものです。
 前陛下が1989年に即位されたときのお言葉は「憲法を守り、これに従って責務を果たす」でした。
 この「憲法を守り、これに従って責務を果たす」には、憲法99条に規定されている天皇憲法尊重擁護義務が極めて明確に表現されています。
 

 政府が、今回それを定型とせずに敢えて「憲法にのっとり」に変えたことについて、
 琉球新報は、「政権の意向が加わり、ニュアンスを弱めたのであれば、遺憾と言うほかない」と述べました。
 沖縄タイムスはより具体的に、「『守り』という言葉には99条を前提にした主体的な意思が感じられるが、『のっとり』にはそのニュアンスが希薄である」として「今回なぜ『守り』から『のっとり』に変わったのだろうか」と述べています。
 
 天皇憲法の関りは国家にとって最も根源的なものです。それをその時々の内閣の意向で「表現」を変えていい筈がありません。
 琉球新報沖縄タイムスの社説を紹介します。
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<社説> 天皇陛下が即位 象徴の意味再確認したい
琉球新報 2019年5月2日

 天皇陛下が1日、即位された。「即位後朝見(ちょうけん)の儀」で「憲法にのっとり、象徴としての責務を果たす」と述べた。象徴天皇として歩んでいく決意を示したものだ。
 この機会に「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」という憲法1条の意味を再確認しておきたい。
 
 この条文は、国家の意思を最終決定する主権を国民が持つことを明示している。平等な社会にあって、天皇だけに特別な地位を与えたのは、日本の伝統や国民感情を考慮した結果とされる。
 例外を認めて国民主権と調和させたのが象徴天皇制だ。天皇は限られた国事行為だけを行い、国政に関する権能を持たない。政治に立ち入ってはならない存在なのである。
 全ての国事行為について責任を負うのは内閣だ。今後、憲法が尊重されていくかどうかは、助言、承認をする立場にある内閣の姿勢いかんにかかっている。
 
 上皇となった前陛下が1989年に即位した際には憲法を守り、これに従って責務を果たす」と述べていた。今回は「憲法にのっとり」に変わった。天皇のお言葉は臨時閣議で決定されたものだ。
 天皇には憲法尊重擁護の義務があり、憲法に対するスタンスは不変であるはずだ。政権の意向が加わり、ニュアンスを弱めたのであれば、遺憾と言うほかない。
 

 本紙加盟の日本世論調査会が昨年12月に実施した全国面接世論調査によると、天皇制の在り方について79%が「今のままでよい」と回答し、象徴天皇制支持が大半を占めていた。
 天皇に対し50%が「親しみを感じる」、19%が「すてきだ」と答えている。皇室に対して、おおむね好感を持っていることが分かる。
 今後、このような国民感情に着目した為政者が、自らの政治的意図に沿う形で、天皇を利用しようともくろむ恐れがないとも限らない。
 国民統合の象徴である天皇が政治的に利用されることがないように、常に為政者の動きに目を光らせておく必要がある。政治利用の前例をつくると際限がなくなるからだ。
 
 かつて天皇の名の下に戦争に突入し、おびただしい数の命が失われたことを忘れてはならない。
 昭和天皇が沖縄を訪問したのは皇太子時代の1度だけだ。昭和天皇実録によると、21年3月6日に与那原沖に停泊した戦艦から上陸し、県庁などを訪れた。その日のうちに船に戻っている。
 これに対し上皇さまは皇太子時代を含め11回来県し、戦跡地を訪れるなどした。昭和天皇の時代に沖縄を戦場にしたことなどへの償いの意味もあったのではないか。
 陛下も即位するまでに5回沖縄を訪れている。上皇さまの思いが受け継がれているものと信じる。
 
 
社説[天皇陛下憲法]「お言葉」の変化なぜ?
沖縄タイムス 2019年5月2日

 「令和」の時代が幕を開けた。天皇陛下は国事行為である「即位後朝見(ちょうけん)の儀」に臨んだ。最初の「お言葉」を述べ、国民に即位を宣言した。
 「憲法にのっとり、日本国および日本国民統合の象徴としての責務を果たすことを誓い、国民の幸せと国の一層の発展、そして世界の平和を切に希望します」
 平成改元時の即位後朝見の儀で、前陛下は「皆さんとともに日本国憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓う」と述べている。
 
 平易な言葉遣いで国民に呼び掛ける形は踏襲しているものの、2人の言葉には小さな変化がある。
 前陛下が「憲法を守り」と語ったのに対し、陛下は「憲法にのっとり」という言葉を使った。
 憲法99条は「天皇又(また)は摂政及(およ)び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とうたう。
 「守り」という言葉には99条を前提にした主体的な意思が感じられるが、「のっとり」にはそのニュアンスが希薄である。今回なぜ「守り」から「のっとり」に変わったのだろうか。
 「お言葉」は閣議決定されている。小さな変化の裏で何があったのか気になる。
 2012年に公表した自民党日本国憲法改正草案では、「憲法尊重擁護義務」から「天皇又は摂政」が削除されている。それと何らかの関係があるのだろうか。
 立憲主義の柱である99条を空洞化することがあってはならない。
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 朝見の儀の前に、陛下は初めての国事行為となる「剣璽(けんじ)等承継の儀」に臨んだ。
 皇位のしるしとされる剣や璽(じ)(勾玉(まがたま))などを受け継ぐ儀式である。神話に由来しており、国事行為にすることに対し疑問視する声が根強い。
 皇位継承権のない女性皇族の同席を認めないのも時代錯誤である。
 11月に陛下が臨む「新嘗祭(にいなめさい)」は、国民の安寧や五穀豊穣(ほうじょう)を祈る宮中祭祀(さいし)である。
 即位後、最初に行われるのが「大嘗祭(だいじょうさい)」で、政府は国事行為としないことを決めている。神道形式の宗教的性格が強いからだ。
 約27億円の国費支出に異論が多い。皇嗣(こうし)秋篠宮さまからも疑問の声が出た。
 1995年、「大嘗祭訴訟」の控訴審判決で大阪高裁は「儀式への国費支出は政教分離規定に違反するのではないかとの疑いは一概には否定できない」と指摘。原告側の主張をくんだ判断が示されたのを忘れてはならない。
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 皇室典範皇位継承を「男系男子」に限っており、代替わりによって継承資格者は3人に減った。
 継承を安定させるには女性・女系天皇を認めるなど皇室制度改革が急務だが、安倍政権下では進んでいない。支持基盤である一部保守派の反発が強いためである。
 憲法の男女平等の原則からも疑問が残る皇位継承と女性の社会進出の遅れは無関係とはいえないのではないか。
 憲法天皇の関わりを深く考え、冷静に議論する時だ。
投稿者 湯沢 事務局 時刻: 9:00