原発大阪市民投票/市長が市民投票条例案につけた意見書と、それに対する事務局の見解

市長が市民投票条例案につけた意見書と、それに対する事務局の見解(2012年2月20日

橋下徹大阪市長は、本日、私たち、市民グループ【みんなで決めよう「原発国民投票】が運動を進め、大阪市有権者55,428人が制定を求めた「原発」市民投票条例案について、彼の意見を付け同案を市議会に付議(提出)しました。その意見の全文と、それに対するグループ事務局の現時点での見解を、急ぎ示します。

[意見の全文](pdf)
[条例案](pdf)
[事務局の見解]
意見書中〈4〉における橋下市長の意見。
原子力発電に関しては、昨年11月に実施された市長選挙の結果から、市民の意思は脱原発依存の方向にあることは明確であり、本件条例案がめざす住民の意思反映については、既に結果が示されていると言える。(中略)単に原子力発電所の稼働の是非だけを問うために多額の経費をかけて市民投票を実施する必要性は乏しいと考えられる。」
 
先の市長選挙において、関西電力保有の「原発」をどうするのかという問題が、[橋下:平松]両候補の選挙戦の主要な争点になった事実はない。
 選挙戦を通して、多数の大阪市民が、電力の大量消費地の住民、関電の筆頭株主である自治体の住民としての自覚を強めてこの問題に関する議論を深め、自身の意思を具現化するために橋下候補あるいは平松候補に投票したという事実もない。
 つまり、多数の市民は関電の「原発」稼働について、あるいは大阪維新の会の「市長選マニフェスト」(18頁5の7/エネルギー政策)について、十分に学びもしていないし議論もしていない。そして、明確な意思表示もしていないというのが事実である。
◆さらに、前述のマニフェストには「原発依存度を下げることを目標に…」と記してあるが、私たちが条例案に明記している市民投票の設問は、関電管内の原発の稼働を認めるか否かであり、「依存度を下げること」に賛成か否かではない。もし稼働に反対する票が多ければ、原発依存率を下げるのではなくゼロにするということであり、大阪維新の会マニフェストとは似て非なるものであるということを申し上げておく。
◆ただし、誤解を避けるために断っておくが、そもそも本件条例制定の目的は「脱原発」そのものではなく、この重要案件について関わっていく権利と責任をもつ市民が、自らの価値観や人生観をかけて意思表示をするということである。これは当然、もし「原発の稼働を認める」という票が多数を占めれば、市長はその意思を汲み取る形で行動しなくてはならないことを意味する。
新潟県巻町や刈羽村三重県海山町において、「原発建設」「プルサーマル導入」に関する住民投票が実施された際は、当該自治体において、1カ月~3カ月にわたり、連日、その案件に関わることについて、旺盛な宣伝戦や資源エネルギー庁長官が参加しての賛否両派の公開討論会開催など活発な議論が展開された。その上で、一人ひとりの住民・主権者が、よく学びよく考えよく話し合った末「是非」について明確な意思を示して自ら結果責任を負うた。私たちは、大阪市においても、関電保有原発の稼働について、そうした形で市民がこれに関わる権利を行使し、責任をとることを望んでいる。
◆バスや地下鉄の民営化といった一般的な案件とは異なり、関電保有の「原発」をどうするのかという課題は、大阪や関西、日本の行く末を左右する極めて重要な案件である。こうした最重要案件については、市町村合併大阪都構想同様、市長一人の識見で決めるのではなく、住民投票にかけ主権者一人ひとりの意思を確認し、それを汲み取る形で市長としての権限を行使すべきだ。
選挙で勝ったのだから、何もかも自分が決めて自分が進めるという姿勢は市民自治を損なうもので、民意を大切にするという政治家がやることではない
選挙にしろ、リコール投票にしろ、私たちの主権行使にかかわる経費は最優先で確保されるべきであり、今回私たちが求めている「原発」市民投票にかかる経費が惜しいと言わんばかりの発言は、この市民投票実施の意味を理解されていないゆえのこととはいえ、残念でならない。
なお、意見書の6の部分は、橋下市長自身ではなく、事務方が記されたものと拝察。
これについても、事務局見解を示しておきます。
意見書中〈6〉における橋下市長の意見。
「また、本件条例案第12条第2項においては、市民投票運動に関して日本国憲法の改正手続に関する法律の規定を準用するとしており、これらの規定で定められている罰則は最も重いもので「1年以上7年以下の懲役又は禁錮」となっているが、これは、条例中に2年以下の懲役若しくは禁錮を科する旨の規定を設けることができるとする地方自治法第14条第3項の規定に抵触するものである。
 さらに、本件条例案第12条第3項における「地方公務員法第36条第1項から第3項までの規定、その他公務員の政治的行為を制限する法律上の規定は、適用しない」との規定は、法律上の根拠なく条例によって法律の適用を除外するものであり、法令に違反しない限りにおいて条例を制定することができるとする地方自治法第14条第1項の規定に抵触するものである。」
◆「1年以上7年以下の懲役又は禁錮」が地方自治法14条3項に違反する、という指摘について
 条例案12条1項は市民投票運動が原則自由であることを定め、同条2項は市民投票の管理執行上の公正さを確保すること、及び市民投票の自由が他者によって不当に侵害されないよう、あくまで例外として(罰則による規制を含む)国民投票法の規定の趣旨を準用することとしています。
 当然のことながら、法の準用規定の構成要件、法定刑をそのまま市民投票に適用するものではありません。直接適用は法論理的、実務的にもありえないばかりか、そもそも、条例案2条2項は、運動規制に係る条項の解釈適用が限定的に行われるべきことを明確にしているところです。
 この点、国民投票法115条(多衆の国民投票妨害罪)1項は、「国民投票」において多衆集合して投票事務関係者、施設等に対する暴行罪、騒擾罪に該当する罪を犯した「首謀者」について適用されるものです。市民投票において、そのまま適用されることは想定していません。
 また、他の準用条文も含め、法定刑は、地方自治法14条3項の範囲内で定められるべきことは言うまでもなく、条例案は「加重処罰」を意図するものではありません(結果として、法定刑の上限は刑法208条・暴行罪と同じになります)。
◆政治的行為の制限規定「適用除外」(条例案12条3項)が、地方自治法14条1項に違反するという指摘について
 条例案12条1項の趣旨は、当然、投票資格者(条例案5条)に該当する公務員にも該当すると考えます。公職の選挙とは異なり、公務員の投票運動及び意見表明の自由は可及的に保障するべきであるというのが、国民投票法の趣旨(立法者の制定意思)でありました。
 地方公務員法36条1項等、各種の公務員法が定める政治的行為の制限規定は、今後、衆参両院の憲法審査会で議論が行われ、公務員たる地位を利用しない国民投票運動については適用除外とされる方向です(国民投票法附則11条参照)。条例案は、国会での議論の方向性を踏まえたものであります。
 近時は、明らかに実質的違法性が欠けるようなケース、例えば公務員が休日に行った政治活動に対して、公務員法違反として不当な逮捕、起訴が行われる事例が見られます。繰り返しますが、市民投票と公職の選挙とは質的に異なるものであり、公務員について、運動主体としての自由な地位を保障すべきです。適用除外を明確に定めることは、言論の自由等を保障する憲法の趣旨により適合すると私たちは考えます。
 なお、「法令に違反しない限り、条例を定めることができる」(地方自治法14条1項)の解釈についていえば、3月の府議会で提出が予定されている「大阪府教育基本条例案」がまさに、地方教育行政法、教育公務員特例法、教育基本法の立法趣旨、条文解釈・運用を超えた内容を含んでいる(その疑義が強い)ことを付言しておきます。
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