「いいお月さま」の英訳は「I love you 」?「御誂 治郎吉格子」

本当は今日が満月なのだけど、台風前の昨日は、
雲の間から少しだけ綺麗なお月様が見えた。

名月の晩にアップしたいと思っていた無声映画「御誂え 次郎吉格子」には、
「いいお月様…」というセリフが何度か出てくる。

「I  love you  」をどう訳すか?      
夏目漱石は、「月がきれいだね」と訳しなさい。
「私はあなたを愛してます」なんてセリフを日本人は言わないから…とアドバイス

それならこの映画で、度々男女間で交わされる「いいお月様…」というセリフは
「I love you」に近いのだろう…
「お誂え次郎吉格子」を鑑賞しながら、そんなことを考えた。

脚本を書いた伊藤大輔監督は、この漱石の話をご存知だったかもしれない。(笑)
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お誂え次郎吉格子(おあつらえじろきちごうし)は、
1931年、戦争に突入する少し前に公開された無声映画(サイレント)。

サイレントではあるが、映画に活弁士を付けることで、まるでスクリーンから声が出ているかのように鑑賞できる。
サイレント映画の面白さと、「七色の声」 と言われる活弁士遊花さんの活弁
二つの芸術鑑賞ができる、ぜいたくな映画会である。


原作は、吉川英治の小説「次郎吉格子」
監督、脚本は、当時33歳の伊藤大輔監督
私は知らない世代だけれど、伊藤監督のファンは多いとのこと。
次郎吉を大河内傳次郎
妖艶な遊女おせん(お仙)役に伏見直江
対照的に清純な娘・お喜乃役を演じた伏見信子は姉妹での出演。
大河内傳次郎さんは惚れ惚れするような男っぷりの役者さん。(彼が、後に趣味で作った庭園「大河内山荘」も素晴らしい。)
ストーリーは…(あまり観る機会がないと思われるのでネタバレです)
ねずみ小僧次郎吉が、江戸から上方に逃れて来る場面から。
いろはにおえどちりぬるを……隠すこの身は上方に…と、
七五調のナレーションも見事!
伏見寺田屋からの三十石船で、治郎吉は遊女お仙と出会い、恋仲に。
ここにもお月さんが…登場。
「いいお月さん…」で、二人の恋は進展します。
船宿でお仙の身の上話を聞き、
冷酷なお仙の兄、仁吉に「お仙を売るのは止めてくれ」と頼みに行く次郎吉…しかし、仁吉はとんでもない悪者でした。
その店に現れた武家の清純な娘、お喜乃にも心惹かれる次郎吉
貧乏長屋で暮らすお喜乃は、内職しながら病気の父の看病をする健気な娘。彼女の父は、ねずみ小僧に公金を盗まれたせいで浪人となったと知り、治郎吉は気が咎めます。
更に、仁吉に父親を殺され、「与力重松の妾になれ」と言われていたお喜乃は絶体絶命!治郎吉が彼女を守ります。
何度も危機から救い出してくれる治郎吉に、思いを寄せるお喜乃
「治郎さん、私を連れて行ってください。あなたについて行きたい」           こんなことを好きな女性から言われたら、舞い上がってしまうでしょう。 しかし、追われる盗賊の身としては、彼女を幸せにはできないし、連れて逃げるわけにもいきません。
 彼女を安全な場所まで連れて行くよう駕篭かきに頼み、身を引く治郎吉。

自分のような盗っ人の身の上でも、生涯にたった一つぐらい綺麗な思い出があっていい・・。」そう言う治郎吉のセリフが泣かせます。                 「ありがとうございます。治郎さん、いいお月さま・・」                                                      ここも 叶わぬ恋ながら「いいお月さま・・」は    「I   love  You 」の世界           (行きて帰らぬ夢ならば、そっと目と目で別れ言う。
 月も今宵は名残月。)ナレーションの文章も美しい。
一方、お仙の方は・・治郎吉からもらった百両で兄に借金を返すが、悪賢い兄は鼠小僧の金と察して、彼をおびき寄せるためお仙を縛りつけます。治郎吉はお喜乃の仇討ちに仁吉のウチへ行き、お仙を助けますが          「一緒に逃げて」というお仙に、
「外を見ろ。こう囲まれては逃げられない」と観念する治郎吉
御用の提灯の数がどんどん増え、取り囲まれていきます
「治郎さん。女の一念、私が逃がして見せる。」
お仙は御用提灯が仁吉の家へと動くのを見て、
「治郎さん、私はお仙という女をあんたに忘れさせないよ。」
というと川へ飛び込む。
この場面、女の情念を感じますが、愛する治郎吉を逃がすために自分の命を捧げたおせんに心打たれます。
「川だ、川へ行ったぞ」
飛び込んだお仙を「鼠小僧」と思った御用提灯は次々川へと集まっていき・・難を逃れた治郎吉は、それを屋根の上から見物。

  「お仙ーお喜乃ーほれ見ろ、、いいお月さまだ・・」
 この場面も「いい月だ」と言いながら、二人の女性への思慕を告白し、
二人に想いを馳せている様子がうかがえました。                                               その後、治郎吉がついに逮捕され、死罪にされた・・との報告で幕。
正反対のタイプの女性二人から愛された治郎吉、
一人は自分の美しい思い出に・・
もう一人は自分を逃がすために命を捧げてくれた・・
結末は死罪になったとされているが、二人の女性を思い出すと治郎吉の心は安らかだっただろう。
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活弁士の遊花さんは、妖艶な女性も清純な女性も、悪人の仁吉も、治郎吉もすべて一人でこなされます。悪人のセリフは悪人顔に、清純な女性は清純な表情、妖艶な女性には表情も妖艶に・・すべて役者さんになりきって…
会はこの後、食卓を囲んで映画の感想会と懇親会に。
これがまた楽しみ^^

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食事の用意をしてくださる方が今日は欠席で、今回は、私も
白和えと、向田邦子流のワカメの炒め物を差し入れしました。
20人分作るのは結構大変(^_^;)
食事やお酒をいただきながらの語り合いは話もはずみ、また、主催者さんの
NPO京都の文化を映像で記録する会理事長の濱口 郎さんが、専門家の立場から解説もしてくださるのも魅力です。


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濱口さんと遊花さん。2月開催時の写真。
次回は「伊豆の踊子」記事アップは来年ですね。