『週間ポスト』 5/6ついに「国民の命」まで権力の踏み台に!➁〝菅官邸が隠した「被爆データ6500枚」

①の記事の続き
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写真)原子力安全委か3月25日に公表したSPEEDIの拡散試算図
 
理由は本当にそれだけだろうか。
 嘘の検証の前に、一番大事な「放射能被害」について触れなければならない。
 
3月23日に公表された試算図(40㌻に掲載)を見ると、放射性物質が北西方向に拡散していることがわかる。
当時、屋内退避区域となっていた30㌔圏の外側にも大きくせり出している。当初から区域外なのに放射線量が高かった飯館村などがすっぽり覆われており、「定量的」ではなべとも予測はかなり正確だったことがわかる。
 それだけに罪は重い。このシステムを正しく運用していれば、飯舘村などの住民を速やかに避難させ、被曝を防げたからである。枝野幸男官房長官らはそれら地域に対し、ずっと「安全だ」と言い続け、それからも長く放射線量が下がらないと、ついに4月11日になって、同町などを「計画的避難区域」という法律にも定めのない適当な名をつけて〝やっぱり避難して〟と方向転換した。住民たちの1か月間の被曝は、明らかに「政治犯罪」により引き起こされたものだ。

 嘘の検証に移る。原子力安全委は、まるで「2枚以外の予測は意味がなかった」といいたげだが、そんなことはない。
 
原子力安全委の専門委員を務めた経験を持つ武田邦彦・中部大学総合工学研究所教授が指摘する。
「確かにSPEEDIでは、放射性物質の量がわからないと飛散『量』の予測はできない。ただし、どの地域に多く飛散するか、どの地域のリスクが高いかという相対的な予測は可能です。
政府は12日段階で半径20㌔圏内に避難指示を出したが、SPEEDIの予測を踏まえていれば、その圏外でも、リスクの高い地域に警戒を呼びかけることができたと考えられます」
 事実、放射性物質は北西に吹く海風に乗り、地元で古くから「風の道」と呼ばれてきた室原川沿いを遡って飯線材に降り注いだ。同村でモニタリングが始まった4月18日時点でも、毎時30マイクロシーベルトという高い数値が検出されていたのである。
 東電は地震発生翌日の12日に1号機と3号機で炉内の圧力を下げるために放射能を帯びた水蒸気などを建屋外に放出する「ベント」に踏み切り、13日には2号機でも実施。さらに、15日にはフィルターを通さない緊急措置である「ドライベント」も行なった。この夕イミングで大量の放射性物質が飛散したことは間違いない。それはモニタリングのデータもはっきり示している(50㌻参照)。
 だが、枝野官房長官は1号機のベント後に、「放出はただちに健康に影響を及ぼすものではない」(12日)と発言し、20㌔圏のみの避難指示を変更しなかった。
センターの証言によれば、枝野氏はSPEEDIのデータを知っていたはずだ。
 SPEEDIを担当する文科省科学技術・学術政策局内部から重大証言を得た。
「官邸幹部から、SPEEDI情報は公表するなと命じられていた。さらに、2号機でベントが行なわれた翌日(16日)には、官邸の指示でSPEEDIの担当が文科省から内閣府原子力安全委に移された」
 名指しされた官邸幹部は「そうした事実はない」と大慌てで否定したが、政府が〝口止め〟した疑いは強い。なぜなら関連自治体も同様に証言するからだ。
 システム通り、福島県庁にもSPEEDIの試算図は当初から送られていたが、県は周辺市町村や県民に警報を出していない。その理由を福島県災害対策本部原子力班はこう説明した。
原子力安全委が公表するかどうか判断するので、県が勝手に公表してはならないと釘を刺されました」
 福島県は、玄葉光一郎・国家戦略相や渡部恒三民主党最高顧問という菅政権幹部の地元だ。玄葉氏は原子力行政を推進する立場の科学技術政策担当相を兼務しており、渡部氏は自民党時代に福島への原発誘致に関わった政治家である。
 この経緯は、国会で徹底的に解明されなければならない。「政府が情報を隠して国民を被曝させた」とすれば、チェルノブイリ事故を隠して大量の被曝者を出した旧ソビエト政府と全く同じ歴史的大罪である。
しかも、その後も「安全だ」と言い続けた経緯を考えると、その動機は「政府の初動ミスを隠すため」だったと考えるのが妥当だろう。

(写真)飯館村では住民が長期間にわたって被曝の危険に晒された

財務省は「来秋に消費税10%」狙い

そして、3つ目の大嘘が進められている。
菅首相は4月11日に「復興構想会議」を設立した。
被災地復興のグランドデザインを決める、いわば日本の未来像を描く大仕事を担う重大な会議だ。
ところが、そこにはなぜか政治家もいなければ大臣もいない。
民間人の学者や、失礼ながら「国家建設」には縁の薄そうな文化人が並ぶ。
これで「政治主導」や「政府の責任ある姿勢」が担保されるとは到底思えない。
その会議の初会合(14日)で、さっそく菅政権の企みが透けて見えた。議長に就任した五百旗頭(いおきべ)真・防衛大学校長はこう宣言した。
「復興のために要する経費は神戸の比ではない。国民全体で負担することを視界に入れないといけない」
都市再生ではなく、のっけから増税の話であった。
菅政権の悲願である大増税を、〝民間中心の会議〟の名を借りて推進しようという魂胆が丸見えである。
案の定、振り付け役は財務省だった。元財務省理財局長の佐々木豊成・内閣官房副長官補が同会議の事務局である「被災地復興法案等準備室」の室長に潜り込んでおり、会議を裏から操る重要ポストを握った。
内閣府に出向中の財務省中堅はそれを隠そうともしない。
「五百旗頭議長は政治・外交史が専門だが、政府の審議会委員をいくつも務めてきたから財務省とパイプが太い。いきなり復興増税を打ち上げたのは、佐々木さんが、〝財源論を後回しにしたら思い切った復興ができなくなります〟とアドバイスしたからです。
財務省与謝野馨・経財相が主導していた税と社会保障の一体改革を検討する集中検討会議を一時休止させ、復興構想会議で先に増税案をまとめるつもりです。
五百旗頭復興増税で3%上げ、与謝野さんの社会保障一体改革で2%上げる。合わせて来年秋に消費税率10%を目指す」
 菅内閣が第一次補正予算に「年金財源を復興に回す」方針を盛り込んだことも、「年金まで使わなければならないほど国の台所は厳しい」と見せかける増税の布石だという。「大停電ブラフ」と同じ霞が関の手法だ。
 騙されてはいけない。増税などしなくても復興財源に充てることが可能な不要不急の予算は山ほどある。
 今年度予算の公共事業費を見ると、整備新幹線に2950億円がつぎ込まれるが、その半分以上(1780億円)が自民党の森書朗・元首相の選挙区(石川2区)を通る北陸新幹線に充てられる。過去最高の事業費だ。
 建設中止か続行かの方針が決まっていない八ッ場ダムには、付け替え道路建設などに140億円もの予算がついた。県営発電所(1万1400㌔㌣)の併設計画があることから、菅政権の「電力不足」キャンペーンに便乗した建設推進論が高まっている。こうしたダム事業全体の予算は2478億円に上る。
 自民党を離党して菅政権にすり寄った野中広務・元自民党幹事長が会長を務める全国土地改良事業団体連合会の土地改良予算(農水省)は昨年度より約12%増の2397億円。減反政策の一方で農地を造成するという大きな矛盾を抱える同予算は、政権交代直後に当時の小沢一郎・幹事長が「半減する」と大ナタを振るったが、それを仙谷由人氏が野中氏とのパイプで復活させた経緯がある「いわくつき事業」だ。
 こんな予算は全額カットし、まさに土地改良が必要な被災地に投じることに反対する国民はほとんどいないだろう。
 役人のヘソクリもある。特別会計には国債整理基金の約16兆円、外国為替特別会計の剰余金31兆円などがある。
 会計検査院の飯塚正史・官房審議官は、前々年度の決算剰余金を今年度予算に繰り入れる現行の会計方式を改め、その年度の剰余金は次の年の予算に充てるルールにするだけで、増税なしで「30兆円」の復興財源が生まれると、決算のプロならではの指摘をしている。
しかし、役人に優しい菅政権はこの埋蔵金に手を付ける気はない。

 
債権の取り立てもできるはずだ。日本政府は米国債を約60兆円保有している
 菅首相オバマ政権に「30兆円分の米国債を売却させてもらう」と宣言すれば、たちどころに復興費用は捻出できる。それこそ〝トモダチ〟ではないのか。
また、円借款残高が3兆円ある中国に「このような状況だから、返済してもらいたい」と求めてもいい
 
 ところが菅政権は逆に、米国に思いやり予算を差し出すことを決めた。増税で国民の財産を奪っても、米国の利益を分けてもらうことは絶対にやらない。
 本当の「財源」を隠して増税を推し進めるのは、役人と政治家に30兆円の復興財源を配分して「政権の安泰」を図りたいという、100%利己的な動機であるといわざるを得ない


増税会議」に大新聞幹部

 そして、国民に背を向けて既得権益者に尻尾を振る菅政権が堂々と権力の座に居座っていられるのは、その「一味」に政権を監視するはずの大メディアが加わっているからである。
 財務省から増税のミッションを託された「復興構想会議」の委員には、新聞界から2人が参加している。
 渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長の腹心と呼ばれる橋本五郎・読売新聞特別編集委員と、元朝日新聞論説委員の高成田亨仙台大学教授である。
 大マスコミが権力の一部となって政策立案に関われば、もはや政権に対するチエック機能は働かない。菅首相が復興政策づくりにメディアの助けを借りた効果はてきめんだった。
 朝日新聞は4月18日付朝刊で(復興増税「賛成」59%)という見出しで世論調査の結果を掲載した。読売新聞が報じた世論調査(4月1日付)の増税賛成は「60%」。毎日新聞(4月18日付)は「58%」と、犬メディアは横並びで「増税キャンペーン」を展開している。しかし彼らの〝調査〟では、本誌が指摘したような「増税以外の財源論」は選択肢にない。「復興のために増税を我慢しますか、絶対に反対ですか」と聞けば、多くの国民が「賛成」といわざるを得ないのは当然ではないか。
見逃してはならないのは、この利権にまみれた「政・官・報トライアングル」の利害が、国民の利害と決定的に相反することである。
脱原発」ではなく「原発維持」、「増税なき復興」ではなく「大増税」、「国民の安全」より「政権の安定」、これで得するのは利権を手にする政治家と官僚、そして彼らの腰巾着でいたい大メディアだけである。
 3つの嘘は手法が全く同じで笑えてさえくる。
 本誌が電力はあるはずだと批判すれば、「揚水発電で400万㌔㍗捻出しましたが、これ以上は無理」という。SPEEDIを活用すべきと追及されれば、「2枚だけ公表します」と出す。
そして「増税なき財源」が指摘されると、決まって「その金は使えない」といいながら、「レンホウちゃん」あたりを使ってスズメの涙の予算カットを見せ、「ほら、政治家も官僚も必死にやってます」とアピールする。
これで国民を騙せると思っているのである。
 
菅首相は、国会で復旧の道筋がついた時点で退陣するつもりがないかと問われ、こう答弁した。
「欲張りかもしれないが、復興復旧と財政再建の道筋をつけることができれば、政治家として本望だ」
 この「欲」が国民を地獄に突き落とす。もうお引き取り願うしかない。

(写真)まさしく〝復興増税会議〟(五首旗頭議長)