8月に聴きたい詩 ヒロシマ原爆詩集  「慟哭」: 大平数子 &Alf momさんのコメント

 8月6日に再掲載したかったのですが、遅くなりました。
「慟哭」は吉永小百合さんの原爆詩集CD「第二楽章」に入っています。
お勧めのCDです。
核兵器のない、平和な二十一世紀を願って、祈るような思いで朗読しました…」
世界で初めて被爆地となった「ヒロシマ」を、さまざまな女性がさまざまな視点で語った「原爆詩」。数多の映画で戦争や被爆の悲劇を演じた女優・吉永小百合が、一人の女性として朗読する「原爆詩」を、美しい音楽で綴った珠玉のアルバム
 

 「慟哭」(どうこく)   大平数子 

逝ったひとはかえってこれないから
逝ったひとは叫ぶことが出来ないから
逝ったひとはなげくすべがないから

生きのこったひとはどうすればいい
生きのこったひとはなにがわかればいい

生きのこったひとはかなしみをちぎってあるく
生きのこったひとは思い出を凍らせてあるく
生きのこったひとは固定した面(マスク)を抱いてあるく
 
 
(原爆より三日目に吾が家の焼けあとに呆然と立ちました)
めぐりめぐってたずねあてたら まだ灰があつうて
やかんをひろうてもどりました
でこぼこのやかんになっておりました

やかんよ
きかしてくれ
親しい人の消息を

やかんがかわゆうて
むしように
むしようにさすっておりました

 
坊さんが来てさ
くろいものを着てさ
かねをならしはじめると
母さんに見つめられて
あかるい灯明のむこうに
おまえたち
てれているのさ
ぽろ ぽろ
いとすいせんの匂う下で
母さんに叱られたとき
おまえたち
やったように
ちょっと泣き顔なのさ
 
 
月夜
もう寝たかい
もうねたかい
まだかい
 
もうねたろう
はよう
ねてくれよ
 
 
よんでいる
だれかよんでいる
むこうのほうでよんでいる
くずれながら
よせてきながら
 
母(ママン)ー
どこかでよんでいる
母(ママン)ー
沖の方でよんでいる
 
 
夕方
花やの前を通ると
花たちがいっせいにこっちを見る
チューリップも
ヒヤシンスも
それからフリージア
みいんな
手を出して
連れてかえってくれという
母さんに抱かれていたい言う
 
 
失ったものに
まちにあったかい灯がとぼるようになった
ふかふか ふかしたてのパンが
ちんれつだなにかざられるようになった
中学の帽子が似合うだろう
今宵かじるこのパンを
たべさしてやりたい
はらいっぱいたべさしてやりたい
女夜叉(おんなやしゃ)になって
おまえたちを殺したものを
憎んで、憎んで、憎み殺してやりたいが
今日は
母さんは空になって
おまえのための鳩を飛ばそう
まめつぶになって消えていくまで
とばしつづけよう
 
 
しょうじ よう
やすし よう

しょうじ よう
やすし よう

しょうじ よおう
やすしい よおう

しょうじい よおう
やすしい よおう

しょうじい
しょうじい
しょうじいい

(しょうじ=次男)
(やすし=長男)

風さん 風さん 風さん
あなたが世界中をくまなく吹いて
どこかでわたしの子どもを見かけたら
わたしが
待って待って
待ちくたびれて
それでも
のぞみを捨てないで
まだ
待っているからと
あの子に伝えて下さいな
 
お月さん お月さん お月さん
あなたは
1年 365日
そうして歩いておいでだから
あなたは何でも見えるでしょうから
私の子どもが
道が多くて帰れないと
泣いていたなら
迷わずまっすぐ帰ったらいいと
おしえてやって下さいな
 
つばめさん つばめさん
あなたがいた みなみの国に
もしや わたしの子どもが
帰るのを忘れて 遊んでいやしないでしょうか
あの子はものおぼえのいいこだから
きっとわたしを
思いだしてくれるでしょうけれど
南の国はあったかいから
南の国はいっぱいいっぱい花が匂うているから
花の香りにむせて
私の子どもが帰るのを忘れているかも
しれないのです
もし
あなたが私の子どもを見かけたら
私が待っているからと
あの子に伝えて下さいな
 
 
ザクザクザク
山里にみぞれ降る
ゆきの重さ
悲しみの重さ
 
とてつもなくながいよると
とてつもなくみじかいひると
とてるもなくながいよると
とてつもなくみじかいひると
 
 
 
こどもたちよ
あなたは知っているでしょう
正義ということを

正義とは
つるぎをぬくことでないことを
正義とは
”あい”だということを
正義とは
お母さんを悲しませないことだということを
みんなお母さんの子だから
子ども達よ
あなたは知っているでしょう。

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初めてこの詩を聴いた時、涙が止まりませんでした。
バックに流れる美しい音楽と、吉永小百合さんの哀切な詩の朗読に、
子供を失った母親の悲しみが心に染みとおっていきます。

 愛する者を失う悲しみは、ヒロシマも福島も同じです。
ヒロシマ原爆記念日、そして9日の長崎の原爆記念日は、
原爆だけではなく、原発も含めて、人類が核の犠牲になることがないように・・と、祈る日にしたいです。

alfmomさんからコメントいただいてました。
(亡き彼女を偲んで・・追記させていただきます)

母親の気持ちが身に染みました。

「やかんがかわゆうて
むしように
むしようにさすっておりました」
母親の悲しみがいたい程伝わって来ます。

「正義とは
つるぎをぬくことでないことを
正義とは
”あい”だということを
正義とは
お母さんを悲しませないことだということを」

世の中に広がる不正義。そういう世の中を作る先頭に立っているのが現首相。
悔しくてなりません。
権力に対して、私(たち)の力は微小ですが、それでも最後までその大きな力に
抗し続けるつもりです。
2015/3/13(金) 午後 5:45
 
・・・               ・・・・alf's mom