金子みすゞの詩の世界
先日、大丸心斎橋店に、金子みすず展を見に行きました。
たくさんの人が知っている「みんなちがってみんないい」という言葉を世に広めたのが、この詩です。
私と小鳥と鈴と
私が両手をひろげても、
お空はちつとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のやうに、
地面を速くは走れない。
私がからだをゆすつても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがつて、みんないい。
*違うもの同士、違いを認め合って仲よくしましょう・・という詩です。
人間だけでなく、鳥にも、ものにも、同じように優しいまなざしを向けています。
今回の企画はみすずの生涯をたどるだけでなく、六十余人のファンが自分の好きな詩を選び、メッセージを綴っていました。それぞれの心の琴線に触れた詩とコメントを味わいながら、私も心洗われるひと時を過ごしました。
心に残った詩をいくつかご紹介させていただきます。・・自分の好きな詩ばかりに偏ってしまいますが(笑)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
積つた雪
上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしてゐて。
下の雪
重かろな。
何百人ものせてゐて。
中の雪
さみしかろな。
空も地面もみえないで
*雪にも人間のような思いやりを寄せています・・・中の雪という発想には驚きました。
雪に心があると考えたこともなく、また、上や下には気づくけれど、真ん中の雪の存在までは心が及ばない・・見落としがちなところまで、みすゞさんの目が届いています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
みんなを好きに
私は好きになりたいな
なんでもかんでもみいんな。
葱もトマトもおさかなも
残らず好きになりたいな。
うちのおかずは、みいんな
母さまがおつくりなったもの。
私は好きになりたいな、
誰でもかれでもみいんな。
お医者さんでも烏でも
残らず好きになりたいな。
世界のものはみイんな、
神様おつくりなったもの
*この発想は、マザーテレサと同じではないかしら・・?どんな人にも存在の価値を見いだして、
温かいまなざしを注ぎ続けたマザーテレサと同じような感性を感じました。
この詩を選ばれたのは、日本ネパール友好協会代表を務めるオギノ芳信氏
彼は、ネパールへの撮影旅行から ネパールでのボランティア活動に入られた方です。
ネパールには1996年、全国のみすゞファンから届いた募金で建てられたネパールみすゞ小学校があるということを彼のメッセージから知りました。校舎の正面にこの詩が、ひらがなとネパール語で刻まれているそうです。
みすゞさんの詩が、ネパールの子供たちの学校を建てることにまで広がったことを嬉しく思いました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
花屋の爺さん
花屋の爺さん
花売りに
お花は町でみな売れた
花屋の爺さん
さびしいな
育てたお花がみな売れた
花屋の爺さん
日が暮れりゃ
ぽっつり一人で小屋のなか
花屋の爺さん
夢にみる
売ったお花のしやわせを
*このお爺さんは花を売っただけでなく、その後のお花の幸せまでも願っているところがいいですね。
普通なら「花が全部売れて良かった!今日はよく儲かった・・・わしは、幸せだ」・・・
と、自分の幸せで終わってしまうところです。
ところが、この詩では、花屋のお爺さんは「売ったお花の幸せ」を夢見て、
お花を買った人が、お花を見て幸せな気持ちになってくれたらいいなぁ・・・と思うのです。
それがお花の幸せで、・・お花が幸せなら、売った私も幸せだよ・・・と。
「あなたが幸せなら・・・私も幸せですよ」という幸福論でしょうか。
自分の幸せよりも、「貴方が幸せなら・・」という相手を思う心が感じられる幸せの在り方・・・が素敵
です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こんなふうに相手を思い、誰もの幸せを願うみすゞさん。
次の詩も そんな みすゞさんらしい詩です
こぶとり (おはなしのうたの一)
正直爺さんこぶがなく
なんだか寂しくなりました。
意地悪爺さんこぶがふえ、
毎日わいわい泣いてます。
正直爺さんお見舞いだ、
わたしのこぶがついたとは、
やれやれ、ほんとにお気の毒、
も一度、いっしょに参りましょ。
山から出てきた二人連れ、
正直爺さんこぶ一つ
意地悪爺さんこぶ一つ
二人でにこにこ笑ってた。
この詩は全く知りませんでしたので、とても印象に残りました。
この詩を選ばれた あまんきみこさんは童話作家です。
子供の頃、こぶとりの物語の後味が悪いので…何とか他のお話が作れないかと思われていたとのこと。
そこで、みすずさんのこの詩に出会い、とても嬉しかった!とコメントされていました。
私はあのお話の続きを考えてみようなんて・・思ったことがありません。
児童文学者と童謡詩人みすずさんの優しい感性は、きっとよく似ているのでしょう。
誰に頼まれたわけでもないのに、さらっとこんな続編を書かれたみすずさんの優しさに心打たれます。
この世の全てのものに慈しみ深い視線を注ぐみすずさんには、意地悪じいさんも欲深じいさんもいないのでしょう。「みんなを好きになりたいな」のみすゞさんですから・・・。
最後に、心に残った方をご紹介します。
ホスピス緩和センター副院長の末永医師のコメントです・・(途中までですが・・)
みすゞさんの詩はいつもすべて命に意味があり、見えないものに命の存在を見いだしています。その温かいまなざしがとても素敵です。
ホスピスの命はみすゞさんの心そのものです・・・
このお医者さまが、ホスピスという仕事を選ばれたのは、一人の癌患者さんとの出会いから
…と紹介されていました。
彼は一人の癌患者さんの身体を診るだけでなく、心にも触れて…、きっとそのつらさや苦しみを、
自分のことのようにして向き合われた方なのでしょう。
文章から、彼の優しいお人がらが伺われました。
みすゞさんと同じように目に見えない世界や命を大切に思われる方のようです。
できれば、こんな優しいお医者様に出会いたいですね。
ところで、みすずさんの詩をこの世に誕生させたのは、詩人矢崎節夫さんです。
矢崎節夫さんは早稲田の学生時代に、みすゞさんのたった一篇の詩を読んで、その詩に惚れ込みました。
それは「大漁」という詩です。
朝焼け小焼けだ
大漁だ
大羽鰛(おおばいわし)の
大漁だ
浜は祭の
ようだけど
海のなかでは
何万の
鰛(いわし)のとむらい
するだろう
大漁を喜び、人々がお祭り騒ぎをしている時に、
みすゞさんは、海の中の鰮たちの悲しみにも思いを馳せるような人だったから・・です。
「濱は祭りの/ようだけど/海の中では/何万の/鰮のとむらい/するだろう」
言葉の奥にあるみすゞさんの優しい感性に感動した彼は、もっと他の詩も読んでみたい…と思い、
みすゞの詩を必死に探し続けます。
古本屋さんを探し回ること16年!
その後、友人からの紹介で彼女の弟にあたる上山雅輔さんと出会います。そこで、初めて弟である彼が大切に持っていたみすずさんのすべての詩と出会うのです。
矢崎さんは、彼女の詩を世の中に紹介したいと思い、ついに金子みすず全集を出版しました。
金子みすゞの詩は、矢崎さんの情熱によってこの世に誕生したのです。
たった一つの詩への感動が、こんなふうに実を結んだということも、いい話だなぁと思いました。
みすゞさんの詩は、今では、多くの人に愛唱され、翻訳されて、世界にも広がっています。
みすゞさんの詩がたくさんの方に読まれて、その優しい心が伝わっていくことを期待したいです。
・・・皆さんはどの詩がお好きでしょうか・・・。
たくさんの人が知っている「みんなちがってみんないい」という言葉を世に広めたのが、この詩です。
私と小鳥と鈴と
私が両手をひろげても、
お空はちつとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のやうに、
地面を速くは走れない。
私がからだをゆすつても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがつて、みんないい。
*違うもの同士、違いを認め合って仲よくしましょう・・という詩です。
人間だけでなく、鳥にも、ものにも、同じように優しいまなざしを向けています。
今回の企画はみすずの生涯をたどるだけでなく、六十余人のファンが自分の好きな詩を選び、メッセージを綴っていました。それぞれの心の琴線に触れた詩とコメントを味わいながら、私も心洗われるひと時を過ごしました。
心に残った詩をいくつかご紹介させていただきます。・・自分の好きな詩ばかりに偏ってしまいますが(笑)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
積つた雪
上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしてゐて。
下の雪
重かろな。
何百人ものせてゐて。
中の雪
さみしかろな。
空も地面もみえないで
*雪にも人間のような思いやりを寄せています・・・中の雪という発想には驚きました。
雪に心があると考えたこともなく、また、上や下には気づくけれど、真ん中の雪の存在までは心が及ばない・・見落としがちなところまで、みすゞさんの目が届いています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
みんなを好きに
私は好きになりたいな
なんでもかんでもみいんな。
葱もトマトもおさかなも
残らず好きになりたいな。
うちのおかずは、みいんな
母さまがおつくりなったもの。
私は好きになりたいな、
誰でもかれでもみいんな。
お医者さんでも烏でも
残らず好きになりたいな。
世界のものはみイんな、
神様おつくりなったもの
*この発想は、マザーテレサと同じではないかしら・・?どんな人にも存在の価値を見いだして、
温かいまなざしを注ぎ続けたマザーテレサと同じような感性を感じました。
この詩を選ばれたのは、日本ネパール友好協会代表を務めるオギノ芳信氏
彼は、ネパールへの撮影旅行から ネパールでのボランティア活動に入られた方です。
ネパールには1996年、全国のみすゞファンから届いた募金で建てられたネパールみすゞ小学校があるということを彼のメッセージから知りました。校舎の正面にこの詩が、ひらがなとネパール語で刻まれているそうです。
みすゞさんの詩が、ネパールの子供たちの学校を建てることにまで広がったことを嬉しく思いました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
花屋の爺さん
花屋の爺さん
花売りに
お花は町でみな売れた
花屋の爺さん
さびしいな
育てたお花がみな売れた
花屋の爺さん
日が暮れりゃ
ぽっつり一人で小屋のなか
花屋の爺さん
夢にみる
売ったお花のしやわせを
*このお爺さんは花を売っただけでなく、その後のお花の幸せまでも願っているところがいいですね。
普通なら「花が全部売れて良かった!今日はよく儲かった・・・わしは、幸せだ」・・・
と、自分の幸せで終わってしまうところです。
ところが、この詩では、花屋のお爺さんは「売ったお花の幸せ」を夢見て、
お花を買った人が、お花を見て幸せな気持ちになってくれたらいいなぁ・・・と思うのです。
それがお花の幸せで、・・お花が幸せなら、売った私も幸せだよ・・・と。
「あなたが幸せなら・・・私も幸せですよ」という幸福論でしょうか。
自分の幸せよりも、「貴方が幸せなら・・」という相手を思う心が感じられる幸せの在り方・・・が素敵
です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こんなふうに相手を思い、誰もの幸せを願うみすゞさん。
次の詩も そんな みすゞさんらしい詩です
こぶとり (おはなしのうたの一)
正直爺さんこぶがなく
なんだか寂しくなりました。
意地悪爺さんこぶがふえ、
毎日わいわい泣いてます。
正直爺さんお見舞いだ、
わたしのこぶがついたとは、
やれやれ、ほんとにお気の毒、
も一度、いっしょに参りましょ。
山から出てきた二人連れ、
正直爺さんこぶ一つ
意地悪爺さんこぶ一つ
二人でにこにこ笑ってた。
この詩は全く知りませんでしたので、とても印象に残りました。
この詩を選ばれた あまんきみこさんは童話作家です。
子供の頃、こぶとりの物語の後味が悪いので…何とか他のお話が作れないかと思われていたとのこと。
そこで、みすずさんのこの詩に出会い、とても嬉しかった!とコメントされていました。
私はあのお話の続きを考えてみようなんて・・思ったことがありません。
児童文学者と童謡詩人みすずさんの優しい感性は、きっとよく似ているのでしょう。
誰に頼まれたわけでもないのに、さらっとこんな続編を書かれたみすずさんの優しさに心打たれます。
この世の全てのものに慈しみ深い視線を注ぐみすずさんには、意地悪じいさんも欲深じいさんもいないのでしょう。「みんなを好きになりたいな」のみすゞさんですから・・・。
最後に、心に残った方をご紹介します。
ホスピス緩和センター副院長の末永医師のコメントです・・(途中までですが・・)
みすゞさんの詩はいつもすべて命に意味があり、見えないものに命の存在を見いだしています。その温かいまなざしがとても素敵です。
ホスピスの命はみすゞさんの心そのものです・・・
このお医者さまが、ホスピスという仕事を選ばれたのは、一人の癌患者さんとの出会いから
…と紹介されていました。
彼は一人の癌患者さんの身体を診るだけでなく、心にも触れて…、きっとそのつらさや苦しみを、
自分のことのようにして向き合われた方なのでしょう。
文章から、彼の優しいお人がらが伺われました。
みすゞさんと同じように目に見えない世界や命を大切に思われる方のようです。
できれば、こんな優しいお医者様に出会いたいですね。
ところで、みすずさんの詩をこの世に誕生させたのは、詩人矢崎節夫さんです。
矢崎節夫さんは早稲田の学生時代に、みすゞさんのたった一篇の詩を読んで、その詩に惚れ込みました。
それは「大漁」という詩です。
朝焼け小焼けだ
大漁だ
大羽鰛(おおばいわし)の
大漁だ
浜は祭の
ようだけど
海のなかでは
何万の
鰛(いわし)のとむらい
するだろう
大漁を喜び、人々がお祭り騒ぎをしている時に、
みすゞさんは、海の中の鰮たちの悲しみにも思いを馳せるような人だったから・・です。
「濱は祭りの/ようだけど/海の中では/何万の/鰮のとむらい/するだろう」
言葉の奥にあるみすゞさんの優しい感性に感動した彼は、もっと他の詩も読んでみたい…と思い、
みすゞの詩を必死に探し続けます。
古本屋さんを探し回ること16年!
その後、友人からの紹介で彼女の弟にあたる上山雅輔さんと出会います。そこで、初めて弟である彼が大切に持っていたみすずさんのすべての詩と出会うのです。
矢崎さんは、彼女の詩を世の中に紹介したいと思い、ついに金子みすず全集を出版しました。
金子みすゞの詩は、矢崎さんの情熱によってこの世に誕生したのです。
たった一つの詩への感動が、こんなふうに実を結んだということも、いい話だなぁと思いました。
みすゞさんの詩は、今では、多くの人に愛唱され、翻訳されて、世界にも広がっています。
みすゞさんの詩がたくさんの方に読まれて、その優しい心が伝わっていくことを期待したいです。
・・・皆さんはどの詩がお好きでしょうか・・・。